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第60話 直の思惑

「お、おはよう、菅原」

「虹波君、おはよう」

「おっーす」


 外へ出ると皆が俺を待っていた。


「おはよう」


 挨拶を返し、皆と並ぶようにして登校する。


「花音ちゃん、今、学校はどんな感じ?」


 先輩が隣にいた遠山に問い掛ける。


「今は特に大丈夫ですよ。来月はまた期末テストがありますけど」

「期末っ!! 俺の心は大ダメージを受けたよ」


 学校に行っていたはずの直までもが驚き、期末テストの憂鬱さに肩を落とす。

 また赤点の上下を彷徨う姿が目に浮かび俺は思わず吹き出した。


「また勉強会でも開く?」

「あ、花音ちゃんナイスアイディア。また虹波の部屋にしちゃう?」

「嫌がらせは止めろよ」


 本気で実行しそうなので釘を刺す。


「ちぇー」


 俺の言葉を受け、舌打ち。

 やっぱり。一言、言っておいて正解だった。俺の部屋でやる事自体は構わないのだが、毎回毎回――というのは流石に辞めて欲しいわけだ。


「あ、実乃里先生だよね? あれ」


 星灯先輩の指さした方を見ると、校門前には実乃里先生の後ろ姿があった。


「本当だ! 実乃里せーんせい!!」


 直の声に気付き、後ろを振り返る。


「はぁ……笹神か」

「はぁ、てなんすかー」

「そのままよ」


 すると実乃里先生は俺の方をじっと見つめ何やら眉間にしわを寄せた。


「名寄さんと、菅野……何か久しぶりな気がするわね」

「菅野って誰ですか! 菅原ですよ」


 本当に名前を覚えないなこの人は。

 この前はしっかり呼んでいた気がするのだが、気のせいだろうか。それに俺だけが名前を間違えられるのも納得がいかない……。

 しかし、まるで反省した様子も見せずに言うのだ。


「あはは、ごめん、ごめん! 久しぶりだったから」

「これこそ『はぁ』ですよ」

「そーだ、そーだ!」


 先輩と遠山が一緒にいるからなのか、道行く人の鋭い視線が俺達を刺す。

 早く教室に入ろうと、チャイムを理由に皆を急かす。


「じゃあ、先輩、遠山、また後で!」

「ちょ、待てよ、虹波~! またな」


 後から追いつきてきた直が、


「何、急にスピード上げてんだよぉぉ? 疲れるだろ」


 と嘆く。


「いや、視線が……。先輩たちと俺らが噂になったら、先輩たちが困るだろ?」

「いや、俺は困らない。むしろ花音ちゃんと噂になれるなら万々歳だ! つまり、虹波は昨日の事で先輩を意識しちゃった訳だな〜」


 否定しようと身を乗り出すが、朝からここまで先輩とは一言も言葉を交わさない所か目すら合わせていない。このどこを否定できる?


「ああぁぁ、」

「嗚呼、因みに今日の部活はありです! これは部長である俺の決定事項」


 開いた口が塞がらない。やられた。


「今、初めてお前に部長を押し付けた事、後悔した」

「時既に遅し! 頑張れぃ」


 ドヤ顔をここぞとばかりに披露し、俺のダメージを更に加速させる。


「むっかつくなぁ……」


 教室に入りながら、直の調子の良い笑顔を眺める。

 まぁ部活の時は平常心でいれば大丈夫だろう……多分。



 そして時は流れ放課後はあっという間やってきた。用があるらしく、直は部活には遅れるそうだ。しょうがないので一人で部室に向かう。

 まだ誰もいないと思うが一応部室をノックして扉を開けた。


「あれ、先輩。早いですね」

「うん。直君から突然部活の連絡来たからびっくりしたよ」


 全員に連絡したのか。残念な事に抜かりない……。


「……な、直は遅れるらしいっすよ」

「あ、花音ちゃんも遅れるって言ってたかも」


 示し合わせたわけじゃないのは分かるが、このタイミングで二人っきりですか?


「……虹波君、座らないの?」

「あ、はい、座ります!」


 動揺が転じて、先輩の席から一番遠い席に座ってしまった。

 これは、何か気づかれたか?

 しかし俺の心配を他所に先輩は普段通りに窓の外を見ている。


「虹波君、私……変われたかな?」


 俺の方を振り返った先輩の笑顔は儚げで今にも消えてしまいそうなぐらい、透き通っていた。

 言葉が出てこない。

 こういう時、何て言えば良いんだろうか?

 気の利いた一言なんて言える気がしないが、でも――、


「強くなった、と思います。よく笑うようになったと思います。それから――」


 言っていて気づいてしまった。変わったのは自分自身だと。俺は星灯先輩の事が好きなのだ、と。


「虹波君?」

「……っすいません」

「ううん。ありがとう。虹波君には助けてもらってばっかりだったね。デスタルでもこっちでも」


 駄目だ……そんな事を言われたら心の内で何度否定したって無駄になる。

 ”こういうのは頭じゃなくて心が先なんだよ”

 直の言葉が頭を過ぎる。

 先輩がもし誰かと付き合って、それで俺が無関係なのは嫌だ。誰かと付き合うなんて嫌だ。

 ――先輩がどこかへ行ってしまうなんて嫌だ。



「星灯先輩……その」

「ん?」

「俺が先輩を好きだって言ったらどうしますか?」

「―――っその、あの……」


 顔を赤らめ、今まで見た事が無い程に困惑した様子を見せる先輩。


「わ、忘れてください! 困らせたいわけじゃないんで」

「……違うよ! 困ってないの。その……びっくりして、私は虹波君にいつも迷惑を掛けてたから好意を持ってもらってることがね……その、本当に嬉しかったの」


 先輩は一生懸命に言葉を探し、それを口にした。


「つまりね――、やっぱり……ありがとう、かなぁ。へへっ」


 息が詰まる。どうして先輩はそんなにも――っ。

 俺は首を横に振った。直が言ってたじゃないか。後悔しないように、って。

 今の俺のありったけを伝えよう。


「……星灯先輩、俺……先輩の事大好きです」


 その瞳も声も笑顔も全部が愛おしい。

 先輩は一瞬だけ、驚いた顔を見せそしてまた花が綻ぶ様に笑った。


「私も貴方が好きです、虹波君――」



 ☆☆☆



 笹神直は苦渋に顔をしかめた。


「なんつー、タイミングだ……」

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