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第54話 自分にしか出来ない事を

『こ、虹波君?』


 戦わなくちゃいけないはずなのに、いざとなった時傷つく事になるのはどうしたって星灯先輩で、だから俺が戦うとすれば今なんだと思う。

 王達にとって、殲滅するべき相手の俺が二人の前に姿を現さなくちゃいけない。

 見えない所から、止めようと思っていたのがそもそも間違いだ。そんな覚悟じゃ、王達は止められない。


「先輩、お願いします!」

「出してあげると良いよ。そしたら、私が星灯のフォローすりから、ね♪」


 意外にも月灯が俺の肩を持つ。


『うん、分かった。無理はしないで。……クロスリリース』

「ありがとうございます」


 先輩が作り出した空間から、外に出た俺は王達の前に姿を現した。


「お主は誰じゃ……?」

「菅原虹波。向こうの世界の人間です」


 そう言いながら、俺は辺りを見回す。やっぱり、モニターで見る世界の情報は情報量が少ない。


「人間だと!?」

「元クロスプリンセス深夜と人間の間に生まれたのが俺です」


 その瞬間、二人とも顔色を急変させる。


「こ、この呪われた血があぁ!!」


 と、頭を抱えて若い王が叫ぶも、俺にはそんな事どうでも良かった。


 直曰く、王達はきっと人間殲滅のタイミングは大解放の時を狙う。だが、いくらデスタルの者達でも大解放の詳しい事は分かっていないんじゃないか、と思う。現にだから、デスタルの土地の一部が向こうの世界に渡ったわけだ。大解放の起きるタイミングやその習性を知り尽くしていたというのならば、そもそもこんな事態にすらなっていないのだ。


「いくら話をしても、無駄というわけですよね。貴方達がどういう考えで、人間殲滅を実行するのか、何て知りたくありません。どんな理由があれ、このやり方は間違っている!! だから、私は力ずくで貴方達を止めてみせます」

「ふぉっふぉ。覚悟はあるみたいじゃのう」

 

 先輩が王を引き留めている間に、と思い俺がするべき事を考える。

 きっと、俺にしか出来ない事があるはずだ。魔剣――グラムが俺に抜けた理由がここに。


 大解放のタイミングが掴めていないと、仮定するなら、さっきの王達の発言が引っ掛かる。人間殲滅は実行された、もう遅い……か。


 大解放じゃない、とすれば全て辻褄はあう。が、大解放以外でデスタルが有利になれるものと言ってもあまり思い付かない。

 俺だったらどうする?

 ――俺……だったら、大解放を意図的に起こす?

 でも、まさかそんな事ができるのか。


「王様方、大人しく倒されて下さい!」

「馬鹿を言うな! 殲滅すべき、人間を前にしてデスタル同士で戦っていられるか」

「ふぉっふぉっふぉ。そればかりは若造が一理あるわい。見せしめにでも殺すとしよう」


 やっぱりそうなるよな。

 俺は手に持っていたグラムを抜いた。


「そうはさせません!」


 引き下がること無く先輩は言い放つ。


「剣!」


 何も無いところから剣を生成し、それを構える。

 若い王に襲いかかる先輩。しかし、王笏で先輩の攻撃は防がれてしまう。


「わしはお主を倒すとしよう」


 そんな中、俺の方を向いた貫禄ある王はどこからか短剣を取り出した。

 俺もグラムを構える。お互いに駆け出した。

 鈍い金属音が耳に付く。


「くっ、大開放――無理矢理起こすつもりで?」

「……っ、ふぉっふぉ、そこまでは辿りついたか」

「やっぱり……!」


 睨み合い、一度力を込めてから再び距離を取る。これは星灯先輩の心配をしている余裕など無いかもしれない。


「大開放を意図的に起こす何て、大体どうやって……?」


 俺は戦いの経験何て持っていない。日頃から体を鍛えてる訳でも無いし、剣の腕が立つわけでもない。

 この場に置いて圧倒的に不利なのは俺の方だ。

 

 王の剣をグラムで防ぎながら、思考を巡らせる。

 そもそも、グラムは普通の剣では無い。これは魔力の無効化が出来る魔剣なのだ。しかし、相手はそれらしき力は一切使っていないし、この場では役に立たない。

 どうにか、この立場を逆転出来る秘策を考えないと。


 しかし、そんな事を考える余地すら無くなってしまう状況が訪れた。


「ははは、愉快、愉快。戦ってますな。……おお、良かったこれはまだ無事か」


 菫花や神綺と戦闘中のはずの王が、破壊された扉から軽々しく入ってきたのだ。

 まさか、二人が殺られたというのか?


 いや、二人なら大丈夫だ。信じろ。

 それよりも――、今の発言。

 無事だった、と安心すると言う事は、それは無事でなくては困るものと言う事だ。

 その王の触れた、四角い機械の様な物体に俺は目を向ける。あんなので、空間が操作出来るとは思っていないが、今は一番可能性が高いのに賭けるしかない。


”先輩……――先輩! 先輩!”


 思いが強ければ、きっと先輩の心に届くはずだ。

 お願いだ、届いてくれ!!


”……夫、……大丈夫、届いてるよ、大丈夫”


 俺は一先ず胸をなで下ろす。――良かった。


”少しだけ、少しだけ俺に時間を下さい。少しだけ……少しで良いんです”



”うん……分かった!”


 よし。

 王達の事はとりあえず、先輩に任せよう。俺はあの機械をグラムで破壊する。

 可能性がどれぐらいあるかは分からないけど、グラムで破壊すれば力は無効化するはず。――あくまで、あの機械が空間操作の力を持っていれば、だが。



 ☆☆☆



 まだ傷は癒えていないが、ずっと休んでいるわけにもいかない。


「優希、大丈夫?」


 楓が優希の手をゆっくりと引きながら階段を上る。地上五階。暗がりな階段から視界が開けた。



 どれぐらいの時間が経っただろうか?

 菫花ははっきりとしない意識の中、二人の人影を捉えた。

 確か、王が去っていった後残った一人の男に留めを刺されて、神綺様を覆っていたバリアを崩されてしまって――……神綺様は?


「ごほっ……」

「楓、クロスプリンセス様は多少意識があるようだ!」

「あぁ、本当? 外傷の割に大丈夫なのかな?」

「……だが、それにしても酷い」

「優希だって、まだ動ける体じゃないんだから。……分かってる?」


 優希と楓がここへ駆けつけた時、この場所は既に戦いの後だった。

 敵らしき相手は見つからない変わりに、知り合いが二人倒れていた。

 一先ず容態を確認しようと側へ寄るが、死まではいかないものの、目が覚めて直ぐに戦える状態ではとても無い。


「楓、とりあえず、応急処置するぞ?」

「はいはい」

「ごほ……誰……?」


 菫花は自分の傍に腰を下ろす一人に、手を伸ばす。


「あーはいはい、今はしゃべらないで? でないと……あの人の応急処置が遅くなるからね」


 面倒くさそうにそういう楓は、治療に戻る。

 楓は元々、薬屋の息子だ。そういう知識は他の人より持ち合わせている。

 もしかしたら、優希が彼をクロスに選んだのはそういう理由なのかもしれない。


「はい、終わりー。優希、そっちの……クロスプリンスは?」

「ああ、こいつはもう戦闘不可能だな。片腕と片足が折れてやがる」


 まだ、戦う。……大丈夫だ、大丈夫だ、大丈夫だ。

 その意思だけで、きっと今まで気を緩めないで来たのだろう。


「……神綺、おい神綺、分かるか? 優希だよ」


 優希の幼い頃、星灯と共に過ごした、弟の様な存在それが神綺だった。

 とりあえず、気を緩ませようと優希は神綺に声を掛ける。

 いつも、へらへら笑って頼りないように見える神綺だが、彼は本当は人一倍仲間や友人の事を思っていて、責任感が強いのだ。

 それを知っている優希だからこそ、早く気を緩ませてあげなければ彼がどれぐらい無理をするのか気が気では無い。


「…………あ」


 やっとの事で神綺はうっすらと目を開けた。

 体のあらゆる所が痛い。

 何があったんだっけ?

 記憶をたどってみるも、意識が朦朧として上手く頭が回らない。


「私の事、分かるか?」

「……優希?」


 その言葉を聞いた優希は一度安堵の表情を浮かべ、また険しい表情に戻した。

 

「お前、珍しく……クロスの力借りてるだろ?」

「あはは……」

「今は敵はいない。お前が守らなくても大丈夫だ」


 神綺が深夜をそのままにしていたのは、優希の言ったままだった。

 彼が気を緩めれば、深夜は外へ出されてしまう。戦う術もなく敵の中に一人。もし、自分のせいでそんな状況に陥ってしまうとしたら――、神綺はそれが許せなかったのだ。


 しかし、神綺の頭の中に暖かい声が響く。


「……お願い。休んで? 私は大丈夫だから。――ありがとう」


 深夜は神綺の作り出した空間の中で俯かせていた顔を上げた。

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