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第53話 三人の王

「大……丈夫なのですよ。言われなくても、王を叩きのめすのです……!」


 ふらり、と立ち上がった菫花は目を剃らさずに真っ直ぐに王を見た。


「……そうでなくてはっ! やれ!!」

「バリア」


 菫花は神綺に向かって腕を伸ばし、三角形を作った。これで一先ず、気を抜かなければ彼を守る事が出来るのだ。


「フィールド!」

フレイムスピア(炎の槍)


 フィールドを空中上に張り、槍を生成した菫花はそこから敵の位置を確認する。

 王を囲むようにして、五人。その他、散らばるようにして五人。


「……優帆、力を貸してくれると嬉しいのです。まずは一人一人片づけるのですよ!」


 王には聞こえないような小さな声ではあるが、力のこもった声で告ぐ。


「下。まずは、あいつなのです」


 菫花の視界に入る一人の男。彼に向かって思い切り槍を振り下ろした。

 男は逃げるわけでも無く、その場に立ち止まり当然の様に槍に割かれた。しかし、その瞬間男が消え、音を立てて仮面が落ちる。

 菫花がその事について考える暇もなく、違う男が襲いかかってきた。

 すかさず、槍で男の物理攻撃を防ぐも、何故かさっきの男より強く感じてしまう。


「っはぁぁあ゛!」


 槍を握り直し、再び男に向かう。

 しかし、他の男がバリアを張った事により菫花の攻撃は防がれてしまった。


「……優帆、一人一人等と面倒臭い事をしていたのが間違いだったのですね。行くのですよ。――オブロングストーム(暴風)

「威力は最大ですよね?」


 優帆の「もちろん」といった様子に、


「蹴散らしてやるのですよ!」


 息ができなくなるほどの暴風を横長に作り出し、王の周りを囲んでいた男達を含め計9人を的に定めた。

 強風は酸素を奪い、その強さ故に男達に重力がかかる。

 風の中で、仮面の落ちる音だけが音を立てる。やがて、強風が収まり、菫花は下に落ちている仮面に目を向けた。


「数は……9個あるのです!」

「流石はクロスプリンセス、というべきか」


 しかし――、


「え?」

 

 耳に残る銃声の音。一体、何が起きたのだろう……?

 菫花はそのまま、地面に倒れこんだ。


「11人だ。全く、面白い勘違いをしてくれる」


 丁度、菫花の後ろから歩いてきた男は拳銃を片手にそう言った。


 だんだんと、ながれでる血。


「優帆……」


 力が出なかった。

 菫花は助けられなかった悔しさに涙を浮かべる。


 また……なのです。助け、られなかった。


「後の始末はお前に任せるぞ」


 王は、勝負あり、だというように菫花と神綺に背を向けた。


「どれだけ……私しはっ……無力なのですか」


 菫花の瞳からは、大粒の涙が零れた。ただただ、敵の後ろ姿を見つめる事しか出来ない何てクロスプリンセスの称号はどこへ消えてしまったのか、と。


 だんだんと、朦朧としていく意識に、菫花はたった一つの願いを込めた。


「――名寄星灯……お願い……なのですよ」



 ☆☆☆



 菫花と神綺は正直心配だったが、俺と先輩は前へと進んだ。

 階段を上りきる。すると、そこには大きな扉が堂々と佇んでいた。


「この扉の向こうに……」

『大丈夫?』


 何だか、人間殲滅の阻止なんて大それた事をしていても変わらないものは変わらないんだな、と思い知らされてしまう。

 先輩は絶対的に先輩で、俺も絶対的に俺なんだ。


「はい、行きましょう」


 腕を伸ばし指で作った三角形を扉に向ける。


ザ・タワー(破壊)


 直後、ドアには亀裂が入りこの巨大なドアは崩壊した。


『――そこまでです!』


 中に足を踏み入れ、先輩は凛々しく王達に告げる。

 中にいたのは二人の王だけで、どうやら他に兵はいないようだった。


「名寄星灯……! お前は、妖魔と共に浄化されたはずでは!?」

「嘘の情報であったという事じゃろ」


 そうか、確か菫花の計らいでデスタルには嘘の情報が流されていたんだった。

 名寄星灯が消滅した、という信じがたいでたらめを。


『話合いが出来ないと、分かっています。それでも――。一つだけ……王様達が人間を殲滅しようとしているのは、何故ですか?』


 その声は、触れてしまえば壊れてしまう物の様に繊細で、とても悲しかった。


「フォッフォ。 この屈辱、デスタルの者が分からないと言わんじゃろうな?」

『分かりません。だって、人間が――一体彼らが何をしたんですか?』


『ただ、一人のクロスプリンセスと人間の間に子供が生まれて、大解放でデスタルの土地が偶然にも……向こうの世界に渡ってしまって……私が、向こうの世界を守りたいと思った……それの何がいけないんですか』


 先輩の目から涙が溢れ落ちる。たった、それだけの事、けれどデスタルの者、いや少なくとも王達のとってそれは小さくなんか無かったのだろう。


「せいぜい、そこでほざくが良い」

「うむ。もう、何もかも遅いのじゃ……」


 そんな……もう全て終わったっていうのか? 

 俺は半ば絶望的な気持ちに陥る。


『まだです!!』

「先輩……?」


 星灯先輩の声からは一欠片の諦めも感じなかった。まだ、諦めていない――。


『何をしたんですか? 白状してもらいます』


”レーザービーム”


 光線が王達に向かって放たれる。やはり王達は自分達を守る術は持ち合わせていないのか、


「な、何をする!! 我々は貴様らの王だぞ!」

「……名寄星灯、人間殲滅を止める覚悟があると言うのならわしらをここで殺して行くが良い」

「なっ、どういう事だ!?」


 貫禄のある王の言葉に反応したのは、俺達で無く何故か、もう一人の若い王だった。

 王の中でも、多少の意見の食い違いはあるようで若い王は酷く動揺している。


「そ、そんな事、聞いていない! 私はこんな所で死にたくなど無いわあ!!!」

「わしは、デスタルという小さな場所を守る為、ただそれだけの為、それを脅かす者を排除するまでじゃ。……若造よ、何の為に人間殲滅をする?」


 確かに、彼らのしようとしている事は王としては間違ってはいないのかもしれない。むしろ、これは正しい選択やのかもしれない。

 俺にとっては、デスタルだって向こうの世界には及ばないけど大切な場所なんだ。

 先輩が過ごした場所で、母さんと再開出来た場所で、菫花や優希さん、皆がいる場所で――。


「っ先輩……俺を外に出してくれませんか?」

『こ、虹波君?』

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