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第51話 本当の強さ

 霊は動きは遅いものの数が以上な多さ。


「先輩! グラムって霊も無効化出来るんですか?」

「霊に何らかの力が加わってるんなら大丈夫なんだけど、その霊は魔方陣から呼び出された者達だから……」

 

 ということは、この剣は魔方陣に触れる以外役に立たないのか。


「虹波君、大体の方向を言ってくれれば私がその霊達を浄化する!」


 先輩に頷いて見せた俺は、出来るだけ霊がいない道をさがす。その道を通りいかに、魔方陣に早く辿り着けるか、それが鍵だ。


「先輩、左!」

「パージ」


 声と同時に俺の丁度左前にいた霊が浄化される。


「くそっ」


 魔方陣は見えるのに、その魔方陣から止まることなく霊が這い出てくるのでは、切りがない。


「先輩、目の前!」

「パージ」

「右!」

「パージ」


 後少しだ!

 今は前だけを見て走った。

 息が苦しい。目の前をあやふやな存在が遮って、また魔方陣が見えなくなってしまう。


「目の前、お願いしますっ!!」

「パージ!」


 あ、また!

 先輩の浄化で少し前に進めても、すぐに塞がれる前方。


「――もう一回!! パージ」

「っ願いだ、早く! 例え霊でも、消すんじゃなくてちゃんと、元の場所に戻したいんだよ!!」


 ずっと思ってた。パージ、あの力はこちらから見れば都合の良い浄化能力。でも、本当は世界から消しているだけなんじゃないかって。妖魔だって、なりたくて妖魔になった訳じゃ無いのに。


「虹波君……。――スタンドスティル!」


 星灯先輩は叫んだ。


 ……霊の動きが止まった?

 周りの霊がまるで時を止めたようにそのままそこに停滞していたのだ。


「これは、いったい?」

「これは……停滞。急いで! 多分数秒しか持たないの」


 数秒――?

 脳がそれを理解する前に体が理解し、俺は動き出していた。

 グラム――魔剣――を抜き、霊と霊の間を駆け抜ける。


 やばい……時間切れか。

 

「――っ届け!」


 助走を付け魔方陣の方に飛び込む。俺は腕を出来るだけ伸ばし、魔剣を魔方陣へと向けた。


 魔剣は魔方陣に触れていた。

 瞬間、魔方陣が光だし、霊はそこに吸い込まれる様にして消えた。


 先輩がこちらに駆け寄って来る。


「虹波君……!」


 ふわり、と暖かい先輩の体が俺を包んだ。


「良かった……。ごめんね、本当に私……――ううん、虹波君、ありがとう」


 俺は恥ずかしいような、嬉しいような、そんな気持ちでむず痒くなった。

 でも――、


「先輩、俺は何があっても先輩のクロスです」


 だから、先輩が責任を感じる必要なんて一つもないんだ。


「大丈夫ですよっ!」


 先輩は俺を抱き締めたまま、静かに、……うん、……うん、と頷いていた。

 そして、「ありがとう」と少し頼りない笑顔を見せた。

 先輩は俺から離れ、


「そろそろ……行こうか? クロスエンフォース」


「――い、おーい!」

 

 部屋の外から聞こえて来た菫花の声。

 どうやら、正門の敵を突破出来たようで、最終決戦の前に全員が集まれた。


『神綺さん、菫花さん! 良かった、無事だったんですね』

「当たり前なのです! 見たところ……そちらも大丈夫そうなのですね」


 ほっと、安心した様子を見せた菫花は、神綺に顔を向けた。


「神綺様、あの、その……大丈夫なのですか?」


 俺達の知らない所で何かあったのだろうか?

 少し緊張感のある沈黙がその場を支配する。

 神綺の言葉を待った。


「ははは、心配しなくても、あれぐらい大丈夫ですよ!」


 あまりの呑気さに肩透かしを食らう気分だ。


『えっと……菫花さん?』


 先輩もこの状況についていけない用で、説明を求めた。


「あ、それは……いいえ、説明するのです」


 少し気まずそうな表情を浮かべながらも、菫花はゆっくりと口を開いた。


「……正門にいた兵士達は何故か神綺様を狙わなかったのです。神綺様など、敵では無いという様に、ずっとこちらばかり攻められて……。でも、神綺様はお優しいから、先に進まず、一緒に戦ってくれた……のですが」


 菫花はちらりと神綺を見た。

 そして首を二、三度横に振ると、


「私しが悪いのです。……ほんの一瞬意識を神綺様に向けてしまったから。だから逆に敵に不意を着かれて――、それを庇った神綺様が……攻撃を全て受けたのです」


 けれど、神綺は菫花の前にしゃがみにっこりと笑った。


「妹を守るのは当然ですよ? 確かに受けた攻撃は、痛いですし辛いです。でも、何より――貴方を守れて良かった」


 いつも、弱々しい神綺が今だけはかっこ良く見えた。

 でも、いくらクロスプリンスでも、全ての攻撃を受ければ相当なダメージになるのではないのか? 

 それに、菫花は一度正門を離れている。その間何が起こっていたか、神綺と母さんしか知らないわけだ。

 もしかしたら、神綺には今の話以上のダメージがあるのかもしれない。


「で、でも、もしも、駄目そうなら必ず言って欲しいのです」

「はい、分かりました」


 その笑顔を見て、彼がクロスプリンスな訳が少し分かった気がした。


『神綺さん、菫花さん、急ぎましょう。王達はすぐ上です』

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