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第5話 デストルクシオントタル

「さっきは、何かすいませんでした」


 先輩を送る帰り道、俺は軽く頭を下げ謝った。


「大丈夫。それより、話なんだけど私の部屋で……大丈夫?」

「部屋!? そんな、長いんですか?」


 思わぬ話の流れに驚きを隠せない。


「あぁ、帰りの時間が心配なんだよね。それなら、大丈夫。家、ここだから」


 そう言った先輩が指さした先にあったのは、笹神寮だった。


「笹神寮!? 何で? 先輩、ここに引っ越したんですか?」


 俺の大きな驚きに対し、先輩は何事も無い様にこくりと頷く。そして、それについても話すから、と続けた。


 先輩の部屋は二階で俺の丁度隣だった。といっても、両隣の扉は直と姫子さんなので、扉は隣では無いのだが。荷物は引っ越し業者に頼んでおいたらしく、心配は必要なかったようだ。先輩を先頭にして階段を上り部屋に入ると、ダンボールが何箱か壁際に寄せられているだけで自分の部屋と広さは同じはずなのに何だか広く感じられた。


「お茶とか出せなくてごめんね」


 そう言い先輩は部屋の窓近くに座ったので、俺も先輩の横に座る事にした。


「いやいや、大丈夫っすよ」

「で、昨日の事なんだけど」


 ここは先に助けてもらった方がお礼を言うべきだろうと思い、先輩の言葉を俺は遮った。


「本当昨日は、どこかで体調崩して倒れてた俺をここまで運んでくれてありがとうございます」


 しかし先輩は、え? と首を傾げた。そして、驚くべき事を口にした。


「あなたが倒れたっていうか、気絶したのって……私のクロスになったからで………それに虹波君、私がここに送り届けるまでちゃんと意識あった気が」


 それじゃあ、夢の記憶と一致………いや、現実的に考えてそれは無いだろ?

 そう、自分に言い聞かせるもののこの状況に見合うシナリオが思いつかない。

 ………あれは、現実なのか?いやいやいや……。


 頭を回している俺を見かねたのか、先輩は心配そうな表情で俺の顔を覗き込む。


「っ! ……近いっす………」


 意識を戻した瞬間、すぐ目の前に先輩の可憐な程美しい瞳と唇に赤面せざるを得ない。しかし、先輩は俺のそんな様子など気にも止めない様子で体勢を戻すと続けた。


「えっと、ちなみに虹波君は昨日の記憶あるんだよね?」

「いやぁ……何と言うか。一つ聞いても良いですか? 昨日、俺と先輩が初めて言葉を交わしたのって……?」

「廃工場……だよ?」

「夢……じゃない?」


 昨日の記憶を否定したくても、それはだんだんと現実味をましてくる。


 夢じゃないとすれば、人間殲滅とか何とか、SF映画が現実だという事になってしまうわけだが。


「虹波君、昨日の事は現実だよ」


 先輩の何もかもを悟ったような声に俺は、はっと、我に返った。


「……覚えてます、全部。夢じゃないんですよね? じゃあ、先輩は何者なんですか?」

「デストルクシオン・トタル、デスタルの人間……なんて言っても分からないと思うけど、この世界とは別に切り離された次元に存在する島と人間達がいるの。まぁ、簡単に言うと――異世界って感じかな」


 デスタル。昨日、先輩を殺そうとしていた赤いショートカットの優希さんって人がそんな話をしていたのを思い出す。


 先輩は俺の反応を待たずに続ける。


「デスタルはね、人間を殲滅しようとしてるんだよ。私はそれを知らずにずっと過ごしてきた。だから、知った時は――絶対に止めようと思ったの!」

「……待ってください。つまり、こうですか? 先輩は切り離された次元、デスタルの人。そして、最近人間殲滅の計画を知った。プラスして昨日の記憶と合わせると、人間殲滅に反対した先輩に嫌気がさした楓に裏切られ、今先輩はデスタルの裏切り者として命を狙われている」


 ぶっ飛び過ぎている。今まで、自分が過ごしてきた世界というのは一体どういうものだったのか。

 今までと、今が同じ世界だなんて到底思えない。


 先輩は何も言わず、こくり、とだけ首を縦に動かすと再び続けた。

 その為に、先輩はデスタルで実力を認められた人がなれるクロスプリンセス、クロスプリンスになったというのだ。


「デスタルの戦闘方法は、クロスっていうパートナーを決めて、その人の精神力を使って攻撃を成すの。だから、虹波君にクロスの契約をしてしまった事、最初に謝っておきます」

「その契約って、どうして破棄されちゃったんですか? 楓のって……」

「私、又はパートナーが新しい人と契約を交わすことによって破棄……になるのかな」


 すると、先輩は立ち上がりダンボールを一箱開けると、何かを取り出した。


「それと、これ」


 そう先輩が俺に差し出したのは、金色に輝く短剣だった。

俺が言葉を先輩の待っていると、


「これは、クロスプリンセスに代々受け継がれる魔剣で、グラムって呼ばれてるもの」


 魔剣は大昔、西洋の王が持っていたと、世界でも伝えられているため名前自体を聞いた所ではそう驚かない。


「――選ばれし少年よ、我を目覚めさせよ………」

「何ですか?」

「グラムの伝承。この剣は決して抜けない。だから、クロスプリンセスのクロスが代々この剣を抜くよう尽くしてきた。まぁ、私にとってはお守りみたいなものだから、関係ないかな……」


 我を目覚めさせよ、か。何だか不思議な感じがした。全く知らない剣のはずなのに見ていると懐かしく感じられ、心が落ち着いた。


「気になってたんですけど、クロスプリンセスって?」

「前クロスプリンセスを倒す事によってデスタルのトップに立つとクロスプリンセスの称号が与えられるの。それと共にクロスプリンスとの婚約もついてくるのが何とも言えないんだけど」


俺がこの話を丸々信じられているかは別として、大体の話は理解する事が出来た。


「あと、これはこれからの話なんだけど……私達、デスタルは一定の期間に成績上位者だけこの世界に派遣されるの。その理由は大部分がこの世界の調査と監視なんだけど、守る……という事もたまにしているの」

「守るって何をです? てか、どうして守る必要が?」


 夕日が完全に沈み、暗すぎる部屋に気がついた先輩は電気のスイッチを押しに行くと少し考えてから言った。


「必要性については……私も分からない。守るっていうのは、土地……なのかな? 時々、デスタルとこの世界とは空間の歪みで繋がってしまう。その繋がった通路を通ってしまったデスタルの動物や虫が次元が変わった衝撃で妖魔と化してしまうの。だから、私達はこの土地と人を守るためにそれを倒している……っ今後、それが出たら宜しくね」


 これまた非現実ですね。でも、もう俺は驚かないですよ。はい。


「ああ、だから引っ越して来たんですね。結界とかよくありますけど、それ張らないんですか?」

「結界はデスタルで教わらなかったから出来ないんだと思う。でも、妖魔の出現は夜が殆どだし、人に危害が出た事無いから大丈夫だよ」


 先輩達が今まで倒してくれていたから大丈夫だったものの、倒してくれていなかったら、このネセシティタウンはどうなっていたのだろうか……と険悪なまでに深刻な考えが頭を過る。

 俺が黙りこくっていると、先輩が口を開いた。


「でも、今日は本当にごめんね」

「ああ゛! っ本当ですよ! 全く……びっくりしたんですよ? そもそも、時間の設定をしっかりして下さいよ。俺はてっきり先輩ががっつりの文化部系に入っているとばかりに思ってたんですよ? だから、部活終了時刻に近くなったら教室に行こうと思ってたのに、ホームルーム終了からずっと待ってるって!? え!?」


 はぁはぁ、と息を整えようとするが、あまりのスピードで先輩へ言葉をぶつけてしまったので、別の意味で息が荒れ、やってしまった感がじわじわと来る。


 い、言い過ぎましたぁ!!


「……あ、ごめん、ね……えっと、あの……何ていうか」


 先輩困らせてどうする、俺っ!?


 おろおろしている先輩を見てだんだんと罪悪感が強くなる。


「先輩、すいません。俺が悪かったです……。で、何部なんですか?」

「帰宅部? だけど……」

「えぇ!? 先輩、部活入ってないんですか?」


 それって……校則違反なんじゃ。


「うん?」

「この学校、部活動は強制ですよ……」


 先輩は頭を悩ませ、


「じゃあ、あなたの部活に入る」

「でも、影の薄い社会貢献・奉仕活動部ですよ? 部員は男子二人ですし、活動も特に……」

「うん。貢奉部にする」


 考えは固まったようで、本当に貢奉部にするらしい。俺としては、あの星灯先輩と同じ部活になれるんだ、嬉しくないはずが無い。それに直だったら死ぬ程喜ぶだろう。


「分かりました。じゃあ、明日入部届け、お願いしますよ」


 直には、どう説明したものか……。

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