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第43話 互いの健闘

「……っ、」


 光の眩しさに目を細める。そこはもうデスタルだった。


「虹波君、じゃあ行こうか。菫花さん達の所へ」

「はい」


 デスタルに詳しくない俺は当たり前と言えば当たり前なのだが、大体どの辺に居るのか検討もつかない。

 けれど、少し歩いたところで目の前に高く聳える城。王達のいる場所だ。

 確か菫花の住む部屋は、城を囲む森の側にあった様な。


「このへんですよね、確か」


 森に近づくなり俺は確認を取る。しかし、答えが帰ってくる前に俺達は菫花の家を見つけた。


「菫花さん?」


 星灯先輩が扉をノックした後で、声を掛ける。と、扉は直ぐに開き、菫花が顔を出した。


「来たのですね」


 俺達はとりあえず中に入れてもらった。

 菫花の部屋には勿論、優帆と神綺がいて、その時を待っていたかのように真剣な表情を見せた。――といっても優帆の場合、前髪で顔は見えないのだが。


「早速、こちらの状況を説明するのですよ」


 間を空けずに、菫花は続ける。


「名寄星灯達が向こうに帰ってから、私達は嘘の情報を王達に流したのですよ」


 変わるようにして、壁に寄りかかりながら優帆が口を開く。


「その情報と言うのがですね、『名寄星灯は妖魔と共にパージで浄化された』というものです」

「星灯ちゃんが、弱いって前提なら妖魔に取り込まれてそのまま……っていうのは納得いくけど、実際違うから大丈夫かしら」


 それ以前に、デスタルには妖魔は出現しない。出現するのは向こうの世界。少し疑われてもおかしくない。


「深夜さぁん。そうなんです……それが問題でした」


 弱々しい声で、神綺はそう訴えた。


「でした?」


 過去形だった事に対し、先輩は首を傾げる。


「王達は黒の名寄星灯復活で、気が動転していたのですよ。彼らにとってそれは脅威。それが、パージと共に消滅した、となれば信じたくなるるのですよ」


「今、王達はそれを信じて大人しくしてるのか?」


 時間が立てば人は冷静になる。元々、これは冷静な時であれば、簡単にバレていそうな嘘。王達が正気を取り戻せば――。


「ふっ……馬鹿なのですか?」


 顔を歪め俺の事を蔑む菫花は最早悪魔だ!


「例え名寄星灯が死んだとしても、人間殲滅は止まらないのですよ。それが、現実なのです。分かったのですか?」


 ――無論、話し合いという希望さえ皆無。止めたければ戦うしかないのだ。


「だから、星灯さんがデスタルにいるという事を直前まで悟られず行動することが不可欠になっていきます」


 体制を変えずに、優帆はそう付け加えた。


「とりあえず、二手に分かれるというのはどうかしら?」


 提案したのは母さんだった。

 確かに、人数は少ない方が行動しやすい。けれど、それと同時に見つかった時のリスクも上がる。

 と、菫花が机にある城の地図をトントンと指で叩く。俺達は覗き込むようにしてそれを見た。


「二手に分かれるとして、行く先はここなのです」


 菫花の指がさしたのは城の最上階。そこに王達がいるのであろう。


「問題は……入口」


 深刻な面持ちで星灯先輩が呟く。


「僕達の幽閉されていた、地下牢への階段が一つ。あとは、正面入口……。あぁ~、大丈夫かなぁ」


 神綺は不安気に頭を抱えた。

 

「思うに、守りが固いのは正面なのです。だから、名寄星灯は地下牢へ続く階段からの侵入がベストだと思うのですよ」


 星灯先輩が、という事は俺もという事だろう。俺はそれに続くように、口を開いた。


「そもそも、どういう組み合わせにする?」


「クロスを考えると――って、神綺様はクロスをどうなさるおつもりなのですか!?」


 そういえば、神綺のクロスを俺は見た事が無い。クロスがいないと言えば母さんもだが、母さんのクロスは――処刑されたと聞いた。


「そっかぁー、あはは。僕は特例中の特別だもんねぇ。クロス無しで、戦える……それが僕」

「じゃあ、丁度良いわね、うふっ。 私、クロスが居なくて困ってたのよ」


 思わず苦笑いしてしまった。可愛らしく、「うふっ」何て言っている場合では無い。


「えぇ! 深夜さんなら、大歓迎ですよぉ」


 大歓迎なのかよ……。色々とこの二人はツッコミどころが満載で、組ませていいのかどうか少し気になるところだ。


「……まぁ、神綺様と深夜さんは一緒に行動するとするのです。が、クロスを考えると、4対2にならざるを得ないのですよ」


 4対2……。3対3を想像していた俺は、少し考えた。やはり、バランスが悪い気がする。しかし、守りもバランスは良いとは限らない。守りの人数比を読めれば、これは良い作戦なのかもしれない。


「俺と星灯先輩が、地下牢から。他、四人は正面から。目的地はそれぞれ、城の最上階。これでどうっすか?」


 俺は机に両手を付き、顔だけ上げると、そう告げた。それぞれに頷くのを確認すると、菫花は、


「じゃあ、その方向で行くのです。詳しく計画を立てつもしょうがないのです。当って砕けろ、なのですよ!」


 当って砕けろ、とはダイレクトな。


「そろそろ……行こうか?」


 母さんの言葉に菫花は地図をぐちゃぐちゃに丸め、ゴミ箱へと投げ入れる。


 俺達は菫花の家の前で分かれる事にした。


「負けるなよ!」


 俺は一応、気合いの一言を投げ掛ける。


「人の事、言えるのですか? ……まぁ、健闘を祈ってるのですよ」


 その後は、もう誰も言わなかった。俺達は互いに背を向け、それぞれの場所へ向かう。俺と先輩は地下牢への階段。菫花、優帆、母さん、神綺は正面入口。

 俺は固く下に下ろされていた拳を、もう一度握り返した。

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