第39話 笹神家の料理は絶品料理
「それにしても、先生は何を買ったんです?」
母さんが美乃里先生が荷物を整理している横で顔を覗かせた。
「えー何? 知りたいの?」
さも面倒くさそうに、そう吐き捨てた。一応、母さんの方が年上なのだが、彼女にとってそれは、さほど大した問題では無いのかもしれない。
「今夜はキノコのソテーと筍の炊き込みご飯とーってまぁ、秋の食なわけよ!」
ドヤ顔でそう宣言するので、どう?羨ましいでしょ、などと美乃里先生が心でそう行っているのが目に見える様だった。
「えー、美味しそうだねぇ!」
「でしょ? 分かってるわね」
更に上機嫌だ。無意識なのかもしれないが、妙に人を転がすのが上手いというか……それはもう母さんの才能だな。
「美乃里先生って料理出来るんですね」
俺のふとした発言は美乃里の気に触ったようだ。にこり、と口だけ微笑ませると、
「もう一度、言ってくれるかしら?」
「……あ、いやぁー美乃里先生のご飯食べてみたいなー……あはははは」
どうやら俺は、母さんとは真逆、人の気に触る発言に関してはプロ並みらしい。
「それなら、私も!」
「じゃあ、彼女に免じて特別にご馳走してあげるわ」
「え!?」
そう言ってしまって、もう遅いが俺は口を抑えた。
「……やっぱり、荷物持ち何かじゃ、罰が足りなかったかしら? うふっ」
……失敗した。だって、実際、困るんだ。美乃里先生が今日、この日にご馳走する、何て言い出してもらっちゃあ。
この後は、母さんの歓迎会があるんだから。
「あの……実はですね、今日は――……み、美乃里先生に直と姫子さんがご馳走してくれるらしくて!」
「笹神家の料理を!?」
そうか、美乃里先生は姫子さんと仲が良かった。だから笹神家の人間の料理の腕前を知っていると言うことか。
なら、都合が良い。
「だから、美乃里先生の手料理も食べたいんすけど、俺的には、今日はこちらに来て欲しいな……と」
「もちろん行くわ! 何だ、早く言いなさいよ〜菅野!」
「菅原ですよ……」
と、ここで俺の携帯電話が鳴ったので、見ると液晶画面には直の名前があった。
となれば母さんのいる前で電話に出るわけにはいかないので、俺は美乃里先生に断り、外に出る事にした。
『もしもし! 虹波!?』
「もしもし? 電話に出るなり、叫ぶなよな」
『んな事は良いんだよ! こっちは、もう準備完了したからさ、ちょっと早いけど虹波に知らせようと思って』
「早かったな。じゃあ、今からもう帰って大丈夫か?」
『大丈夫だけど、お前、今何処にいんの?』
「え? 美乃里先生の家。あ、そうだ、歓迎会に美乃里先生も来るからな」
『……まじで!?』
「まぁな」
そんな会話を交わし、電話を切る。携帯電話の液晶画面には現在時刻が表示されていた。午後四時。元の時間と比べると少しの早いが、寮に着く頃には四時半だろう。となれば、丁度良い時間帯だといえる。
扉を開け、中に入ると美乃里先生が、
「女よ! 絶対、女よ! 最低よ、菅原はっ」
などと、母さんに言い聞かせてた。借りに、今の電話が直じゃなくて、女の人だったとしても俺に問題は無い。
「どーでもいいですから。ほら、そろそろ行きますよ」
「はぁい」
「否定しない所が更に、怪しいわね」
にやにや、しながら俺の横を美乃里先生は通り過ぎた。
「笹神家の料理が食べれるなんて〜幸せっ!」
本当に大人なのかと思うぐらい、浮かれている。寮に行く道のりで、スキップまでしているとは何事だ。
「そんなに、直君と姫子ちゃんの料理は美味しいの?」
「何言ってるのー!? 美味しいってレベルじゃないわ、絶品よ!」
俺は心の中で「絶賛されてるぞー」と、二人に語りかけてみた。すると、にやけ顔の二人が浮かび、思わず、笑ってしまった。
「日が落ちるの早くなわね」
傾きかけた夕日に目を向け、呟くようにそう言った。
「そーっすね」
寮の近くまで行くと、もうそこまで直が迎に来ていた。
「おーい!!」
「直!」
「迎に来てやった」
「ん? 姫子からだ」
美乃里先生は携帯を取り出し、何やら一人でぶつぶつ言っていた。
姫子さん、何か言ったのかな?
「直君! 料理、上手って本当? 私あんま上手くないからさ」
「そんな事、ないですよ。深夜さんはきっと上手いっすよ!俺らがめちゃくちゃ、最強なだけっすから」
何だ、この肯定してくれたのに、イラつく感じは……。
「とうちゃーく!」
直の元気いっぱいな、その叫びに俺の下らない考えも何処かへと消えた。
「姫子弟の部屋で良いの?」
「はい。そこですから」
美乃里先生は直が指さした方に掛けていき、本人の許可も無いまま、部屋と堂々と入っていった。逆に関心してしまう。
俺達もそれに続くように部屋へと入る。すると、母さんが部屋に入ったのを確認するなり、その場をクラッカーの音と飾りが舞った。
「え? え?」
かっきから、辺りをキョロキョロと見回し、戸惑いを隠せないでいる母さんは俺に助けを求めた。
「母さん、笹神寮へようこそ!」
「サプライズ大成功!! ほら、深夜さん座って」
姫子さんが、母さんの手を引き、笹神家の料理が並ぶ机の横に座らせた。
「ほら、皆座った、座った!」
直が全員を席につかせた所で、姫子さんが、
「では、深夜さんを歓迎して、乾杯!」
恒例のこれだ。
そう、そして、何時の如く部屋にはばらばらの言葉が散りばめられ、それは笑いへと変わった。