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第34話 月の灯りは星灯りに憧れて

「……ックロスエンフォース!」


 俺は、ぎゅっ、と目を閉じた。

 失敗した時の事を考えると怖い。もし、あの空間に行けなかったら先輩は――?



「……君は」


 近くで星灯先輩の声がした。しかし、目を開けてみると、傍に居たのは星灯先輩では無く、黒い先輩だった。

 しかし、どうやら俺はあの白い空間へと行く事が出来た様だ。


「どうして貴方がここにいるんですか?」

「あはは……君は、私に消えて欲しかった?」


 突然、俺の脳内に星灯先輩の言葉が蘇った。


『もう、一人は嫌なのに……!』


 さっきまで見せていた、黒い彼女の瞳があまりにも弱々しくて、少し星灯先輩と重ねてしまったんだ。……全然違う筈なのに。


「それは、先輩が決める事です」

「……星灯か」


 分かってる。この人は、悲しかったんだ。否定されて、閉じ込められて、必要とされなくて――でも、だからってあのやり方は間違っていた。


 ”……虹波、君。ありがとう。……私、気を失っちゃってたみたいで……”


「……良かった。気がついたんですね。俺、先輩に心臓止められそうでしたよ」


 ”……ごめんね、虹波君”


「……でも、間に合って、本当に良かったです」


 ”うん、助けてくれて……ありがとう”


 先輩は目の前に居ないけど、星灯先輩が笑ったのが分かった。

 ひくっ……くっ……、と肩を震わせながら、隣で黒い先輩は真っ直ぐ前を向いていた。小さな丸い雫が、すぅ、と頬を伝う。


「ご、ごめんね……星灯。……君にはやっぱり適わないや」


 ”……ううん、そんな事無い。私は……あーえっと……名前……”


 そっか。先輩は自分と話しているようなもんだもんな。


「……星灯が付けて?」


 ”私?”


「うん、星灯が良い」


 うーん、と言いながら、少しの間が空いた。すると、星灯先輩は自信なさげに口を開いた。


 ”こういうの……どうかな?私は星の灯り、小さい光だから月に憧れるの。それで、貴方は月の灯り。大きな光だから、星に憧れるの”


「月の灯り?」


 ”貴方は月灯(つきあ)。……どうかな?”


「月灯……。月灯。月灯かぁ。……ありがとう! 優しい名前だね」


 嗚呼、本当に。先輩らしい。


 ”月灯、私と一緒にいてくれる?”


「……ここに居ても良いの?」


 ”うん……!”



 ……やばいな、少し疲れてきたかも。

 ここに来るまで、月灯と戦ったりして、体力消耗してたんだった。

その事を忘れていた。

 まぁ、それで先輩が元気になるんだったらいっか……。


「はっ……クロスリリース!」


 何かに気がついた先輩は、俺をあの空間からこちらの世界へと戻した。

 でも、俺は少し意識が朦朧としていて、先輩が何を言っているのか聞くことが出来なかった。



「――……く……か……です……」


 ぼんやりと、人の影が俺の上を動くのが分かった。


「……こ……くん……虹波君?」

「はぁ、やっと目覚めたのですか」


 起き上がり、辺りを見回す。どうやら、俺は何処かのベットに寝かされていたようだ。

 可愛らしい、小物が置かれ、ピンクと白でまとめられたこの部屋は一体――?


「ここは?」

「図々しいやつなのですね。私しの部屋に来ておきながら」

「菫花の部屋だったのか」


 見ると、菫花の横で星灯先輩と優帆が俺の顔を覗いていた。


「状況は……飲み込めているのですか? ……貴方には仮りがあるのですよ。……だ、だから、教えてやっても良いって言っているのです!!」


 ぷい、とそっぽを向いた菫花の頬が少し暖かく染まっているように見えたのは俺の見間違えだろうか。


「……じゃあ、お願いします?」


「まず、貴方が名寄星灯の作った空間からこちらに戻って来た事は覚えているのですか?」

「……あー、何となく……」


 確か……月灯と星灯先輩が――と俺は記憶の道を辿った。


「戻ってくるのと同時に貴方は限界が来て眠ってしまったのです。まぁ、それだけならその場で放っておいても良かったのですが……」


 菫花が言葉を詰まらせていると、そのまま先輩が続けた。


「優希さんが来てね、『王達が戻ってくるがここに居て良いのか?』って」


 そうか。月灯がいないと分かれば、王達は再び星灯先輩を処刑にかかるだろう。それに、俺もダウン中。


「それでここに……!」


 でも、どうして優希さんは星灯先輩にそんな事を言ったのだろう?

上の命令で、星灯先輩を殺そうとしていたあの人がどうして。

 確かに、最近星灯先輩を気に掛ける行動を少し見せていたが。

 先輩にとって、優希さんが姉だったように、優希さんにとっても、先輩は妹だったのかな?もしかしたら、本心は殺したく無かったのかもしれない、等とまぁ、俺は都合よく考えてしまう訳だが。


「で、貴方は約束を忘れた訳では無いのですよね?」

「え?」


 約束、なんてしたか?

 忘れている罪悪感からか菫花の真っ直ぐな瞳を見られない。


「……神綺様を助けてくれると、約束したのです」

「した!助けるよ、もちろん。俺の母親も居るしな」


『え!?』


 三人の驚きの声が重なる。

 ってそんなに、驚く事か?


「まぁ……行くなら早く行きましょう」


 息をつき、優帆が話を進める。


 俺達はその言葉に、こくり、と頷き、菫花の部屋を出た。

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