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第31話 黒い瞳は封印の外

 その言葉に反応するように母さんは顔を上げた。瞳からは未だ、ぽたぽた、と大きく丸い粒が流れ落ちていた。でも、先輩が涙を見せた時とは違い――……先輩……の所へ行かなきゃ。


 俺の想いが表情にでも現れていたのだろうか。彼女は、ふわっ、と微笑むと、


「もう一度聞くわ。貴方は何故ここにいるの?」

「星灯先輩を助ける為」


 彼女が言葉を続けようとした時だった。隣の男の人が、がたっ、と立ち上がり、弱々しい声を出した。


「ぇぇええ? 君は星灯の知り合い何ですかぁ?」

「星灯……って、貴方は星灯先輩のお知り合い何ですか?」


 名前を呼び捨てにするぐらいだから、相当な仲なのか?


「僕は神綺。星灯の幼馴染みなんですよぉ。で、僕がクロスプリンスだったりするので、元婚約者――? になります」


 こんな弱々しそうなのが、と思ったが口に出さないでおいた。


「で、何で捕まってるんです?」


 そうそう、重大なのはそこなのだ。クロスプリンスが何故、牢屋にいるのか……そして、彼のクロスは何処にいるのか。


「あー、あはは……それが、僕も良く分からないんですよぉ。気がついたらここにいた……というか」


 何だそりゃ!と、突っ込みを入れてしまいそうになる自分を必死に抑えていると、神綺が「そう言えば」と再び口を開いた。


「僕がここで目覚めて、少しした時だったでしょうか? 菫花――嗚呼、分からないですよね」

「いや、大丈夫っす」


 その返しは予想外だったのか、少し面食らっていたが、こくり、と頷き神綺は続けた。


「菫花が来たんですよ。で、何かと思ってたら『神綺様を守りますから』とか言ってまた何処かへ……」

「守る……」


 菫花は以前の様子からしても、相当に神綺に入れこんでいた。と、すればだ。神綺を菫花が守ろうとしているのはあながち嘘でもないだろう。ただ、先輩と戦っていそうな様子だった事が気になる。……いや、でも電話での先輩の様子からすると違うような……。

 色々と頭の中で試行錯誤した結果、俺はある筋立てを考えた。

 神綺が捕まったのは菫花のミスであり、それを悔いた菫花は、必ず助けると心に決めた。で、誰かにそれを条件に言う事を聞かされている……とか、いや誰かっていうか、それは王なんじゃないか?クロスプリンセスより、上の存在――。

 王に使える幹部、又は王、自らが答えだろう。


「虹波、貴方は――選ばれし子。自分を信じて?」

「分かった」


 選ばれし子、というのは人間でもデスタルのものでも無いからだろうか、と母さんの言葉の本質に首を傾げていたが、自分を信じて、という言葉だけは何故か、すとん、と心に落ちた。


「じゃあ……また、戻ってくるから。必ず」


 すくっ、と立ち上がり、俺は二人に告げた。真っ直ぐ、進めば広場に出られると言う。俺はそこに背を向け、先輩のいる広場へと足を急がせた。


 少しすると、ランプの明かりとはまた違う、光が差し込んでいるのを感じた。


「後少しだ」


 そう呟き、また一歩足を進める。俺はついに、広場へと出た。見るとすぐに王達の姿が目に入った。特等席の様に並べられた数個の椅子に腰掛け愉快そうにそれを見守る様子は俺が今まで見てきた物のどの物よりも醜かった。

 俺の位置からは菫花の後ろ姿だけが見えた。……先輩が処刑される、という場所に菫花か。察するに、神綺を助ける条件として、処刑の執行役をやらされてるとか。

 まぁ、そんな事は今は良い。それよりも――バリアの外の客のざわめきがどうも不自然だ。


「……何なのですか?」


 菫花が、ぽつり、と呟くように言ったその言葉は王達の耳にも届いたようで、


「……あの姿、まさか?」

「封印が……!」

「早く、止めるのだ! 最早、処刑どころでは無いぞ。何が何でも止めろぉ!」


 王達の異様な慌て程に菫花も動揺を隠せない様子だった。しかし、菫花は神綺を守らなくてはならないという思いが強かったのだろう。ぐっ、と拳を握り直すと、腕を前に出し、指で三角形を作ったのだが……その次の瞬間、菫花は俺の方へと吹き飛ばされた。――星灯先輩によって。

 菫花が俺の前に倒れ込んだ所で、やっと先輩の姿が見えた。


「大丈夫か、菫花?」

「うぐっ……あ、貴方は!」


 差し伸べられた手を掴んでからその手が俺のだと気がついたのだろう。顔を見た瞬間に、ぱっ、と手を離されてしまった。


「なぁ、聞いてもいいか? あそこに居るのは誰だ?」


「……名寄星灯」


 菫花は星灯先輩を見つめながら不機嫌そうに言った。

 何故、俺が菫花にそんな事を言ったのか……何てこの変わりようが絶対的過ぎてもう言葉も出てこない。

 目の前にいる星灯先輩は色がついていた。長い黒髪を靡かせながら、こちらを立ち眺めている先輩の元へ俺は近づいた。


「……あはは、君は星灯のクロスだった子ね♪……うざいから消えなさい?」


 声は、表情は、先輩の物なのに――姿は、瞳は、話す事は……まるで違う。


「黒い名寄星灯が目覚めた!」

「どうするのだ!?」

「封印が解けたなんて……!!」


 どよめく王達。

 封印……。元の星灯先輩がこちらだとも言うべき物言いだ。


「全くうるさいなぁ! ねぇ、あの人達……消しちゃっても良いかなぁ?」


 ちらっ、と王達に目をやり、俺に首を傾げてくる先輩。


「消えなさい、とか言ったくせに、どうして俺に聞くんすか?」

「んー、君は何だか星灯の大切な人な気がするから、意見ぐらい聞いてやっても良いかなって♪」


 人差し指を口にあて、にこり、と微笑んだ彼女の瞳は吸い込まれそうなぐらい真っ黒で、輝きに満ちていた。

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