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第3話 先輩との約束

 ロングホームルームか……、眠いな。

 どうせ後ろの方の席だし、と思い俺はうつ伏せになる。だいたい、新学期初日のロングというのは大したことをしないのだ。だったら寝たっていいじゃないか。


「……い、……は……虹波、おーい! 起きろ」

「ん、あぁ? 今、いつ?」

「ロング終了、部活が始まる時間。そして、俺らのランチターイム!」


 どうやら、俺は本当に寝てしまったようだ。


「どうせなら部室で食べるか」

「部室? 珍しいな」

「たまにはな」


 こうして、俺達は部室へ向かう。部活なんてものは我ながら柄じゃないと思うが部活動全員参加の校則がある光涼高校に通っているのだから仕方ない。しかも更に俺は社会貢献・奉仕活動部、略して貢奉部なのだ。社会に貢献、奉仕なんて柄じゃないにも程があるって話だ。当たり前だが、隣で「腹へったー」などとほざいている直も同じく貢奉部なのだ。


 教室棟から屋上の通路を通り、部室棟へと入る。貢奉部の部室は部室棟三階の端なので階段を下りる必要はない。

 直が部室の前に着くなり勢い良く扉を開け、ずかずかと部室に入る。


 おいおい、先輩いるんじゃないの?「失礼します」とか言わなくていいの?

 ふっ、そう思うのも無理ないだろう。俺達は一年で立場と言うものをわきまえなければいけない年代なのだから。特に部活というものは上下関係を重視する。少し挨拶がなってないからと言って三年に絞めあげられ、ちょっと身なりを変えただけで「なめてんの?」何て言われてしまう。


 だがしかし、俺達貢奉部にそんな問題は存在しない。何故なら、部員が俺と直ーー二人だけなのだから。


 俺は静かに部室の扉を閉め、真ん中にどーんと置かれた机を囲む六個のパイプ椅子に目を向ける。既に定位置となりつつある入口に一番近い椅子に手を掛ける。一方、直は俺が椅子に座るまでの間に焼きそばパンとカレーパンを食べ終えたらしく、空になった袋を机の上に置き、自分はパイプ椅子三つを使い器用に寝っ転がっている。


「なぁ……俺達って何で貢奉部なんて部活に入ったんだ? おまけにお前に部長押し付けられてるし」


 唐突に直が問いかける。確かに部長を押し付けたのは悪いと思っている。だが、やりたくなかったのだから仕方が無い。しかも、貢奉部なのは俺のせいじゃない。


「廃部直前で、貢奉部が可哀想ってお前が言ったからだろ?」

「はははっ、そうだっけ~?」


 とぼける直を横目に俺は直の鞄から直と同じ焼きそばパンとカレーパンを取り出し二百円を机の上に置いた。

 俺は毎日こいつからパンを買っているのだ。笹神寮の近くにはスーパー以外に食べ物を買える店が無いのに加え、朝の登校時間とスーパーの開店時間のタイミングが合わないのだ。だから、毎朝遠くまでランニングに行っているこいつにパンの買い出しを頼んでいる、というわけだ。

直が何故毎朝欠かさずにランニングを行っているか……は良く知らないが、こいつにも色々あるみたいだ。


 焼きそばパンを食べながら窓を開けると、吹奏楽部の音出しの音、運動部の掛け声、そして夏らしい熱風が吹き付ける。

 俺は地味にこの感じが好きだったりする。扇風機は回っているが、閉め切ったままの部屋では流石に空気が重い。それに今時、部室棟だからと言ってクーラーが無いのはどうかと思うが。


「何か無いの? 暇〜」

「じゃあ、帰れば?」


 何かないの?の問に対しての答えが見つからなかった俺は直に優しい声で告げる。


「え、酷くないっすか? てか、虹波は帰んないの?」


 あ〜、放課後は先輩に呼び出されてるんだ!テヘッ

 何てこいつに言えたものではない。俺は何か別の用事になりそうな事柄を探した。


「んあぁ……あれだよ、俺は。担任に呼ばれてて」

「………ふーん」


 少しの間があったのが気になるが、直はそんなに気にしてないようだった。怪しいと思われて、事実を言わされ、胸ぐらを掴まれたんじゃ溜まったものではない。嘘をついてしまったという罪悪感は少々ついてくるが、直に締め上げられないだけお得だと言える。


「じゃあ、俺は帰るかなぁ」

「そーしろ、そーしろ」


 芋虫の様にのっそりとパイプ椅子から起き上がり伸びをする直に目を向ける。


 柄にも無い貢奉部で四月から過ごしてきて何を活動した?どう社会に貢献した?ああ、何もしていない。気分で部活に来てみればだらだらと時間を無駄にしてきた。特に今日なんてこんな熱のこもった部屋で時間を無駄にして何処に楽しさとか充実感とか、俺たちにとってプラスになる要素がある?部室で食べようと言い出したさっきの俺は棚に上げ、焼きそばパンの後に食べていた、カレーパンを食べながら思いを巡らせる。


 そういえば、星灯先輩って何部なんだ?てっきり、吹奏楽部とか音楽部とか、かるた部とか箏曲部とか、文化部のがっつり系のに入ってると思ってたけど、それは俺の勝手な思い込みで……。そもそも、先輩……放課後って何時っすか?


 色々と確認するべく取り敢えず、先輩の教室に行ってみようと、俺は席を立った。


「俺ちょっと、出てくるわ。勝手に帰ってろよ? じゃあな」

「あぁ。担任からの呼び出し頑張れ〜」


 見事に騙されている直の顔を見たら何だか無性に笑えてきた俺は寮へ帰ったら先輩に呼び出された事を話そうかな、と心に決めた。


 そして、俺は部室棟から教室棟への屋上の通路を駆け出したのだが――またそこでとんでもない事に気がついてしまった。


 俺……先輩のクラス、知らない。

 放課後、話があるから話そう。それだけの筈なのにどうしてこうも約束の情報が足らないっ!


 取り敢えず俺は、職員室へ行く事にした。

 職員室というのは何か別に悪いことをしたわけでも無いけど入る時に少しの恐怖とドキドキ感と緊張がある。ノックをして扉を開ければ教師達が一斉に振り向いてくるからなのだろうか。

 俺は拳を握り直し、ドアをノックした。


「失礼します。二年の学年主任の方はいらっしゃいますか?」

「ん? 俺だ。一年が何か用か?」


 高身長でごっつい体つきの中年男性。この威圧感は俺を後ずさりさせた。それに、この人は野球部のコーチも引き受けていると聞いたことがある。


「あ、いえ……その名寄星灯先輩のクラスをお聞きしたくて」

「名寄の? ああ、お前も告白か! そうか〜あははっ。頑張れよっ、少年!」


 何だ、陽気で優しい人じゃないか。………って、告白!?ちっがぁーう!!!確かに先輩はモテる。だがしかし先輩に用がある男子ってだけで恋愛沙汰だと誰が断言出来る!


「全く、名寄も隅に置けないよな〜」


 腕を組みながら何もかもを一人で解釈し、頷いているこの教師に俺は言い放った。


「先生、俺が用があるんじゃなく、先輩が俺に用があるんですよ」

「あの名寄がお前に告白!? そっちだったかぁ……」


 何故、この男はそこまで俺たちに告白をさせたいんだ、ともう、ため息しか出ない。話を最後まで聴かない人はこれだから。


「はぁぁ。もう、どうでも良いですよ。早く、クラス教えてください」

「えーと……名寄星灯は……二年B組だな。気合い入れて行ってこい!」


「はあ。……ありがとうございました」


 元々入口の近くで話ていたので直ぐに外に出ることが出来た。ゆっくり後ずさりし、素早く職員室の扉を閉め二年の学年主任からの応援の目を遮った。

 はあぁ。

 思わず深いため息が出てしまう。

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