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第29話 進むべき道

「私も引けない理由があります……ごめんなさい、菫花さん」


 覚悟を決めた名寄星灯は地面に刺さるその剣を手に取った。それに続くように菫花も剣を手に取り、彼女に向ける。地面を強く蹴り、名寄星灯の方に駆け出す。

 名寄星灯は、ぐっ、と剣を握り直し、菫花から振り下ろされた剣を受け止めた。


「私しにだって引けない理由があるのですよ! ……貴方には死んでもらうのです!」


 剣と剣がぶつかり合う音だけが、周りの人達を飲み込んでゆく。


「……はぁ、はぁ……そんなの知ってます。だから、戦わない方法が……っ……無いか聞いたんじゃ無いですか!」


 集中を切らさないように、菫花の攻撃をよけながら、もう届いても遅い想いを叫ぶ。

 引き裂かれそうな程強い、二人の想いがぶつかる。しかし、二人の想い――いや、会話すらも耳に届いていない王達は、


「実に楽しいな」

「名寄星灯、以前より強くなっておる」

「殺しがいがあるというものよ……ふぉっほっほ」


 それぞれの言葉を聞くと、ずっと黙っていた一人の王が口を開いた。


「つまらん遊びは終わりだ。封印が解かれる前にっ……! 菫花ぇ、クロスプリンセスとして我と契約した事を忘れていないのならば、星灯を殺せぇ!!」


 菫花は身震いした。そうだ、忘れてはいけない。王に逆らい、罰を下されるのが自分ならば良いのだ。でも、契約は――破棄できない。

 あの方が、罰を受けるなどという事があってはいけないのだ。


「……はい」


 剣を投げ捨て、菫花は優帆を読んだ。

 と、同時に優帆の意識は菫花の作り出した空間へと帰還した。


「只今戻りました――。はっ……星灯さん、強すぎ。この菫花様とやり合うとは」

「優帆……貴方は私しとずっと一緒にいてくれるのですか?」

「……! はい、もちろんです」



☆☆☆



 笹神直は保健室へと急いだ。ちっ、文化祭に妖魔かよ――。


「……姫子姉は!?」


 美乃里の姿が目に入るなり、ずかずかと保健室に入る笹神直は問い掛けた。


「ん」


 不機嫌そうに美乃里が指さしたのは一番窓際のカーテンで囲われたベットだった。カーテンに映る影はどうも寝ている様子では無く――。

 と、シャッ、と勢い良くカーテンが開いた。

 無論、そこにいたのは笹神姫子だった。


「来たわね、直。見なさい」


 目を向けるとベットの上には何種類かの機械――道具というべきか――がならんでいた。

 一つ間を開けて笹神姫子は続ける。


「私が持っていた、夜美さんからの預かり物よ」

「悪い、俺はこれだけだ」


 彼はポケットからコンパスの様なものを取り出し姫子さんに見せた。 これは、妖魔の位置を示すもの。


「これって虹波の父親が対デスタル用に作ったんだって。夜美さんが言ってた」

「この丸いのとかも?」

「それよ! それがあった! ……それ使うわよ!」


 テニスボール程の大きさの丸い物体を手に持ち、にやり、とする。


「何それ?」

「これは一度きりしか使えないってんで、ずっと取っておいたんだけど……その一度が今回な気がするし。……星灯ちゃんが妖魔を浄化する時の力と同じ作用を起こす事が出来るのが、これよ」


 笹神直は「これが?」と信じられないようすで、目を見開いた。何ともない様に「そうよ」と返した彼女は再び続けた。


「これを妖魔に投げ入れれば良いんだけど……普通の人間の私達は妖魔に近づけば必ずしも何か影響を受ける」

「良いよ、俺が行く」


 そう即答する笹神直に驚きを感じた笹神姫子だったが、少し嬉しくもあり身を案じて道具を一つ持たせることにした。


「何かあったら、連絡して。私もすぐ駆けつけられるように、外には出ておくから」


 彼はコンパスの指す指針を目指して足を急がせた。

 針が示すのは……――!


「くそっ! 何であんな所にいんだよ!」


 部室棟と教室棟を繋ぐ屋上通路、つまり貢奉部の窓から、妖魔の存在がみえてしまう。花音ちゃんは良いが、もし他の客が気がついてしまってパニックになったら……。

 彼は首を振った。


「考えたって、何も始まらねーよな」



☆☆☆



 優希さんと楓を見送った後、俺は再び教室に戻った。先輩はどこにいるのだろう?妖魔の件は直がどうにかしてくれるらしいし、そこは大丈夫なのだろうけれど……でも、あの時脳内に響いた先輩の声は、大丈夫では無かった。

 それに優帆がぽつりと呟いていた一言が気になる。

『はっ……星灯さん、強すぎ』

 何か知っているのだろうか?あいつが菫花の傍に居なかった事も不可解だし。何より、菫花は何処にいるっていうんだ?


「遠山、大丈夫か?」

「え……あ、うん。まぁ、大丈夫って言ったら嘘になるけど私がしっかりしないと貢奉部の名が廃るってもんでしょ?」

「……流石、女王様は違うな」


 遠山は俺の心配などいらなかったようだ。美乃里先生、やっぱり遠山は少し変わったみたいです、と心の中で俺は呟いた。

 「でしょ」と笑ってみせた遠山は俺の背中に回り、ぽん、と背中を押した。


「あんたはうさぎ! アリスとうさぎは一緒にいるものよ?」


 早く先輩の所に行け、という事だろうか?


「……でも、場所の検討がつかないんだよ」


 少なくとも校内には居なかった。だとすると校外?

 いや、優帆の口ぶりからして菫花は妖魔と戦っているのではなく、むしろ先輩と戦っているような……。


「私、思ったんだけどさ、電話すれば良いんじゃない?」

「確かに!」


 電話に出られる状況かどうかは別として、とにかく今はそれに掛けてみることにした。


 プルルルル……プルルルル……

 出ないか?


『……もしもし?』

『先輩っ! 今、どこです?』

『……っ虹波君! そっか、電話すれば良かった。大丈夫? 無事?』

『俺達は大丈夫ですけど、先輩は?』

『……ごめんね、虹波君……。私、……っ死んじゃうかも……』

『……え? どういう意味ですか!? 今すぐ行きますから……どこですか!!』

『……デスタル。……虹波君、私……止めたいよ。私が死んじゃったら……誰が人間殲滅を止めるの? …………お願い、助けて?』


 プツ――。


 正直、混乱していた。何がどうなってる?

 菫花が先輩と戦っていると思ったけど違ったのか?死ぬ……って……優希さんの言っていた事が今、デスタルの王、彼ら自身によって実行されている?


「上の命令だ、死ね――」


 確か、優希さんは俺と先輩が契約を交わしたあの夜そう言っていた。

 じゃあ、先輩はデスタルの幹部にでも拉致られたのか?いや、それだと辻褄が合わない――、優帆の存在はどうなる?


「菅原……? 真っ青な顔してどうしたの? 先輩、電話出たんでしょ?」


 一人で取り詰めていた俺に心配そうな声で遠山が顔を覗かせる。俺は全て話そうと思い、一度は口を開けたものの、また閉じた。

 遠山に話してる時間は無いかもしれない。先輩を助けに行かないと――。


「悪い! 大丈夫だよ、心配するな? 先輩、デスタルにいるみたいなんだ。俺、ちょっと行ってくるよ」

「……うん。す、菅原! ……あ、ううん……いいや。頑張れ、菅原?」


 考えたってしょうがない。とにかく、デスタルに行けば全て分かる。そしてデスタルに行かない限り事態も進まないのだ。

 先輩の言った通り、先輩が殺されそうなのだとしたら――俺はそれを止めなきゃいけない。そんな事、あったらいけないんだ。先輩が死ぬ何て事、俺が絶対に許さない!


 俺は遠山に「ああ」とだけ言うと部室を出た。

 デスタルへの行き方は分かっている。妖魔が出現する原因でもある、通路の開放を利用すれば良いのだ。空いている通路を探し、そこを通る。不幸中の幸いというやつで、今日は妖魔が色んな所で出現してしまっている。ならば、通路を見つけるのにそう時間はかからないはずだ……!

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