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第25話 おまじない

 直のやつ、まさかあれだけやっといて一桁……。

 まさかな。


「それにしても、全部90点以上何て、凄いな」


 あんな話をされた後でこの点数か。

 と、俺の意図を察したのか「勉強だけはね」と呟いた。


「はい、次先輩!」

「うん……」


 先輩は自信なさげに頷いたが、分かっている。先輩も二学年のトップ。まぁ、点数の高い事。


「100点っ!?」


 先輩が広げたテスト用紙を見て直が声をあげた。見ると、端から端まで100点、100点、100点…………ん?


「国語……0点、科学0点数? って、どうしたんですか!? いきなり下がりすぎですよっ」


 驚きのあまり、身を乗り出してしまった。いや!だって、余りにも……差が……。


「んー……あのね……これは、その一日目にやった教科で、ぼーとしてたら、名前を書き忘れちゃって」


 あー……。その瞬間、誰もが心の中で納得しただろう。

 そして、あれだ。これは、名前さえ書いてれば満点でしたってパターンだ。直じゃないが、これこそ、桁が違うって話だ。


「はい、じゃあ菅原!」

「はいよ」


 見るからに平均点がずらりと並んだテストを俺は机の上に並べた。

誰かの反応を待っていたのだが、誰も反応してくれない。

 ちらり、と先輩を見ると視線が重なる。困ったように、にこっ、と笑った先輩はすぐさま俺から視線を逸らした。


「…………た、頼むから誰か、反応してくれぇ!」

「いや、ははは、ごめん。余りにもフツーで。まぁ、予想通りよね」

「……普通で悪かったな。……はぁ」


 こう来ると、直ぐらい悪かった方が良かったんじゃないか、という気さえしてくる。


「はい、じゃあ笹神!」

「ふはははっ! 見るがよい、俺の神がかった点数をっ!」


 そう自信満々に広げられたテスト用紙を見て俺は驚きのあまり思わず後ずさりした。

 ……これはっ!


「……マジで?」

「驚いたわ……」

「直君……」


 赤点が――無い。

 あの直が?赤点ゼロだと!?

 英語2点という、凄まじい記録をたたき出していたこいつが?


「驚いたか! 俺もやれば出来るんだ!」


 って、そういえば、こいつ……。今まで隠していた事を話して肩の荷が降りたから、こんなに集中出来たってことなんじゃ……。


「まぁ、笹神だけは、勉強会の成果あったって事ね」


 それぞれのテスト用紙を片付けながら、俺はパイプ椅子へと腰掛ける。


「じゃあ、準備するか!」


 再び直が、気合いを入れ直し作業に取り掛かる。メニュー作りなどの細かい作業は先輩と遠山。店内や、外の装飾は俺と直。その分担で、やる事にした。


 まずは外からだ。扉には看板を貼るべくその周りには紙花をかざり、扉の横の壁にはダンボールを貼った。ダンボールをペンキで塗り、アリスらしい雰囲気を出す、という考えだ。店内にはセロハンなどで、天井からダンボールの葉っぱなどを垂らし、お茶会の行われる森をイメージさせた。



 この様な準備は水、木、金、土、と前日まで行われ――ついに、前日、最終下校時刻。



『完成っーー!』


 貢奉部の部室に、その一言が響き渡った。


「うん、うん。良い感じじゃない?」


 見渡す限り、御とぎの国。アリスの世界だ。俺達にしては上出来だ。

下校時刻を過ぎてしまうと、学校が締まってしまうので、俺達はとりあえず、急いでここを出ることにした。


 帰り道、俺達は四人で並んで帰った。


「文化祭ってさー、準備を含めて楽しいよな」


 直が、満足そうな笑顔を浮かべながら、瞳を輝かせた。


「分かる、分かる! 今、私達、『楽しい』の真っ只中だね」

「ついに、明日かぁ」


 俺のぼんやりした呟きにびしっと遠山は、


「何、実感ないの?」

「実感はあるけど、なんつーか、ここまで来たのか、みたいな」

「ぷっ……何それ」


 遠山の笑い声に混じれて、先輩は小さく微笑むと言った。


「でも、楽しみだなぁ。私、こういうの初めてだから」

「俺も、楽しみっす」


 一つ間を置いてから、直が大きく息を吸った。

 そして、少し走ってから、くるっ、とこちらを振り向いた。


「明日は絶対、青春を謳歌するっっっぞおぉ!」


 夕日が俺達を暖かく照らした。

 ついに、明日だ。


「……明日、無事に成功しますように」

「何ですか、それ?」


 隣で、手を、ぎゅっ、と握り締めながらそう呟いた先輩に俺は問い掛けた。


「ふふっ……おまじないだよ」


 そういえば……。ここで、一つの記憶が俺の中で蘇った。先輩と契約を交わしたあの夜――先輩は俺に言ったんだ。

『あなたがぐっすり眠れますように…………。……大丈夫、よく眠れるよ』

 確かに、その日はよく眠れた気がする。おまじないだったのか。


「じゃあ、明日は必ず成功ですね!」

「うん」


 遠くで俺と先輩を呼ぶ声がした。足を止めていた為、直と遠山と距離が空いてしまったのだ。


「先輩、行きましょう!」


 俺は先輩の手を引き、二人の元へと走った。

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