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第21話 また、あの時みたいに

 ――彼女は泣いていた。


「なっ、遠山? 大丈夫か?」

「べ、別に大丈夫だけど」


 くるり、と後ろを向き涙を拭う素振りを見せる。

 まだ日中だと言うのに、裏庭は校舎で太陽の光が遮られていて少し暗い。


「直の話……――」

「違う。笹神も姫子さんも悪くないわ……。ただ、私が一人で落ち込んでるだけだから」

「だから、一人じゃないだろ」


 遠山の傍により、腕を引いた。唇をキュッと締め、藤色の髪を横に揺らした。こらえきれなかった涙は彼女の頬を伝う。


「だって……私は……何も出来ない。世界とか人間殲滅とか、知らないわ。……ただ、何も出来なくて、必要とされてないから……事実を話さなければ良かったって……寮にも誘わなければ良かったって……後悔されるのが私は………っ怖かったのよ!」


 遠山は胸の前で拳を、ぎゅっ、と握り締め俯いた。

 今、遠山から目を逸らしちゃダメだ!絶対、逃げないで話をしないと。

 俺は遠山の肩を掴み、こちらを向かせると、


「必要だよ! 遠山は一人じゃないんだよ! 俺は遠山に元気づけてもらった、笑顔にしてもらった、俺に勢いをくれた、何より俺の大切な場所を賑やかにしてくれた……」

「……っすが……わら…… グスッ」

「十分だよ。ありがとう、遠山。これからも、宜しくな?」


 久しぶりの遠山の笑顔だった。

 遠山は大切な仲間だ。必要無いなんて、そんな筈ない。この世に居なくていい奴なんていないんだよ。先輩も直も姫子さんも、遠山も、俺には必要だ。


「ありがとう、菅原」


 先に行ってて良いと言うので、俺は「部室で待ってる」と言い残すとその場を後にした。



☆☆☆



 遠山花音は小さくなる彼の後ろ姿を見つめながら、その場にしゃがみこんだ。陽だまりの様な笑みを誰にも見られない様にこぼす。


「……好きだよ……大好き。ふっ……菅原のバーカ」



「ふぅ……さぁ、行きますか! 部室」


 すくっ、と立ち上がり、彼女は駆け出した。



☆☆☆



「あ、どうも。先輩」

「虹波、俺もいるぞ!!」


 部室には先輩と直が向かい合わせに座っていた。

 先輩にとっても、ずっしりする話だったと思うが大丈夫なのだろうか?

 そう思っていたら思わず、先輩の隣に座ってしまった。


「虹波!? 何故、先輩の隣なんだ!」

「うおっ! いや、これは違くて……無意識? ……あはは……はは……」

「虹波君、もう大丈夫なの?」


 俺が「そんなわけあるか」と激しくツッコミを入れる直を抑えていると、横から先輩が俺をつついた。


「まぁ、俺は何すかね……分かってたんじゃないかと思います。思いのほか、しっくり来たんですよね……母さんの事とか」

「そっか」


 そう言い、先輩は安心しきった表情を見せる。


「先輩はもう大丈夫っすか?」

「私にとっては情報だっから。デスタルの計画を知った時に比べれば全然だよ」


 あ……。

 そっか、それを知った時先輩は一人だったのか。反対する気持ちも隠さなきゃいけなくて、それでも諦めないで……。


「俺、先輩ともっと早く会えてれば良かったです」


 困ったように微笑むと小さく、ありがとう、とだけ呟いた。



 タンタンタン、という足音が段々と大きくなり部室の前でそれは止まった。

 一泊置いて、ゆっくりと扉は開く。立っていたのは遠山だ。随分急いで来たのか、髪は乱れているし、息も荒い。

だけど、とてもスッキリした表情をしていた。


『……おかえりっ!』


 口々に俺達は遠山の名前を読んだ。緩やかな熱風が遠山の後ろから入り込む。

 遠山は何か言おうとして、口を少し開いてまた、閉じた。

 そして大きく口を開くと、


「ただいま!」


 その笑顔は俺と遠山が出会った中で一番のものだった。

 当たり前だ。だって、その笑顔は作り笑いでも無ければ、彼女自身の想いで溢れているのだから。


「よし、文化祭準備開始だぁぁぁ!」

「笹神は気合い十分ね」


 気合いだけはな……と、その様子を苦笑いで見守った。


「えっと、不思議の国のアリスだっけ?」


 確か、テスト前にそんな案が出てた様な気もする。

 その後にあった事がインパクトありすぎて忘れたんだよ、この馬鹿直が。

 ちらりと、直に視線を持っていくが、こいつの能天気さには敵わない。しょうがないか、何て思ってしまうんだ。


「確か、笹神が珍しく良い案出したのよね」

「アリスだと何を売るの?」


 文化祭で一番重要だと思われる、質問を先輩が投げかける。


「紅茶とかクッキーとかが、原作に登場するからそういうのは?」


 確かにそれなら、お客さんも来そうだし、アリス感も出ている。

俺は遠山の提案に頷いた。


「うん、美味しそうだね! カフェみたいな感じかな?」

「四人じゃきつくないか?」

「甘いわね、笹神。休み無しならいけるわよ! いざとなれば姫子さんとか美乃里とかいるし」


 カフェか……。

 想像したら、凄く楽しみになってきた俺は無自覚に笑みをこぼした。


「何、笑ってんだ?虹波」

「え?……あぁ、別になんでもないよ!」

「ふぅん。まぁ、楽しそうだな、何か」


 肯定だ。またこんな風に笑えて良かった。


「文化祭、頑張ろうな」


『うん』


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