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第2話 かの有名な……

 一体、何が起きてるんだ!?


 理解を置き去りにしながら、 周りを見回す。真っ白な空間。色以外のものは何も無い。けれど、考える暇も無く、先輩の透き通る様な声が、耳に入った。


虹波(こうは)君、聞こえる?』


 先輩の声はどこからともなく、聞こえてきて響く。


「先輩? あの、これはいったい?」

『ごめんね、説明は後。オープンって叫んでみて』

「……はい。オープン! …………これで良いんですか? って、うわぁ!」


 何もない白い空間の四方八方にモニターが現れる。このモニターに映る映像……いや景色は、さっきまで俺がいた場所のものだ。だと言うことは、俺は何処か違う場所でさっきの場所をモニターで見れる、と言うこと……なのか?


『逃げ切る為に仕方が無かったの。ごめんなさい……巻き込んで。そこから、周囲の様子が見えるはず。私の言う通りに意識を集中させて』

「了解っす」

『行くよ! まず、ここからこの建物の屋上に飛ぶから、飛ぶイメージと屋上に意識集中』


 この場所から先輩の指示した右横の古い建物の屋上までは最低10メートルはある。無理だ、と思う反面、夢だからか、出来る、という確信も確かにあった。


 ごちゃごちゃ考えるのは今は無しだ!

 とにかく今はイメージと意識集中。


『せぇーのっ!』


 助走を付け、あまり踏み込まない軽いジャンプで先輩は飛ぶ。先輩が作り出した空間には空気抵抗が無いため全然飛んでいる感じがしない。ただ、四方八方の周囲が見えるモニターに映る景色が変わるだけだ。


「……飛べ、ましたね」


 モニターに映る屋上の柵と夜空とその他のビルの屋上を眺めながら先輩に声を掛ける。


『うん、良かった。そうだ……あなたはイネベテブルタウンのどこに住んでるの?』

「この先の大きい道路に出て、学校方面に進んでもらうと笹神寮っていう寮にしては小さめの建物があるはずです。そこが俺の寮です」

『そっか、分かった。じゃあそこまで送るね』


 笹神寮は知り合いが営む、八人制の小規模な寮だ。二階建てで、俺は二階の部屋に住んでいる。


 寮の前まで着くと、寮は灯りに照らされていた。あまり夜に出歩く事がない為、何だか珍しいものを見た気持ちになる。


「クロスリリース」


 先輩の声と共にあの白い空間からこちらの世界に戻る。


「先輩、送ってもらってありがとうございます。さっきのやつらは大丈夫なんですか?」

「うん、追いかけて来てないみたい」

「良かった……あれ? ………何か、意識、が……」


 ふらり、と体のバランスが崩れた。意識が飛びかける。


「初めて精神力を吸い取られたんだもの。無理ない。安心して、大丈夫。良く眠れるよ」


 先輩の声がうっすらにしか聞こえない。俺はもうこの時点で気を失っていた。


☆☆☆


「ねー、優希。どうして、追いかけんの辞めたのさ」


 楓はビルの屋上に足をかけ、つまらなそうにそれをぶらつかせる。


「元クロスプリンセスはクロスを無くし、デスタルからの死刑宣告。こんな面白そうな話があると思うか? これから星灯(せいら)がどうするのか、楽しみだろ? クロスがいないから何も出来ない……それを知りつつあいつは私達を止めに来る。必ずな」


 手を腰にあて偉そうに立つ優希は楓に愉快そうに語る。


「まぁ、優希がそういうならね。でも、上には何て?」

「一人居るだろ? 星灯の死を嫌がった男が」

「ああ! クロスプリンスね。星灯がクロスプリンセスだった時の婚約者でしょ? 全く、もうすぐ新たなクロスプリンセスが発表されて、その人との婚約が決まるっていうのにね」

「そうだな。だが、使えるだろ? 彼の命令だ、とか何とか言えば上だって少しは考え直すさ」


 月明かりが優希の笑顔を不気味に照らし出す。楽しみだな、とだけ残し、二人はその場を後にした。


☆☆☆


 俺の部屋に鳴り響く、この不愉快な騒音。目覚ましの音を早くなんとかしなければ。俺はいつものように半目を開け現在時刻を確認しながら、目覚まし時計を止める。


「7時か……」


 そう言いながら起き上がる。どうしてだろう、いつもより寝覚めがいい気がする。


 歯を磨き、朝食を食べ学校の用意をしている途中でインターホンがなる。返事をしたわけでもなく、ドアに勝手に入ってくださいという貼り紙を貼っておいたわけでもないが、勝手に俺の部屋のドアが開き階段を駆け登る音。


「虹波っ! ちょっと、昨日はどこ行ってたのよ」


 栗色のミディアムロングの髪をポニーテールにし、茶色の瞳を見開かせる。笹神(ささがみ) 姫子(きこ)。ここの寮長だ。


「女の子が虹波を抱えてきた時は本当にびっくりしたんだから! 体調悪いんだったら、あんな夜中に出歩かないでよね。あと、出かける前には寮長である私に報告する事!」


 女の子に抱えられて……? はっ! 先輩!?


 昨日の記憶をだんだんと思い出す。でも、あれは夢のはず。だとすると、女の子ってのは先輩じゃないのか? じゃあ誰なんだよ。


「ちょっと、聞いてるの!?」


 はっと我に返る。


「えっと何でしたっけ? ……そうそう、報告っすよね、姫子さん」


 そこで、再び家のインターホンがなった。これもまた姫子さんの時と同様。ドアに向かって返事をしたわけでもなく、ドアに勝手に入ってくださいっていう貼り紙を貼っておいたわけでもない。だがしかし、扉は勝手に空いて、姫子さんと同じ栗色の短めの髪に茶色の瞳をした男子生徒が階段を昇って部屋に入ってくる。


「虹波っ! 学校行こうぜ」

「……本当に二人って似てるよな」


 こいつ、笹神(ささがみ) (なお)は俺の親友であり、姫子さんとは八つ離れた兄弟だ。


「えっ、姫子姉もいんじゃん! 何さ、二人ってそういう関係? まじでかぁ」

「この馬鹿っ! 違うわよ。私は寮長として注意をしに来たの。んじゃ、虹波! 次からちゃんとしてよ?」


 姫子さんは直の頭を軽く叩いて、階段を降りていった。


 俺は髪をとかす為に一度洗面台に行った。直が迎えに来たという事はかなり時間がやばそうだ。急がなければならない。

 少し伸びてしまった前髪に手を当て、――時間は無いが――迷ったあげく、スパっと、ハサミを入れると案の定切りすぎてしまった。切った事を後悔しながら、制服のネクタイをする。


 よし、問題無い……前髪以外は。


「待たせたっ! 行こう」

「ぶはっ! 何だよ、その前髪っ」

「言うなよ……」


 直に声をかけ、傍に置いておいたスクールバッグを荒々しく肩に掛けると階段を駆け下りる。


 こうして俺は学校に向かい、今にいたる。

 そう。さっきも言ったが、始業式を終えた俺は窓側の後ろから二番目の席で考えていた。俺が昨日散歩に行った時に体験した事は夢なのか否か。あれがもし、夢だとして考えられる事は一つ。俺はちょっとした気分転換のため散歩に出た。そして、体調が悪くなり気絶。そこで、誰だか知らないが親切な女の人が俺を運んだ。


 まぁ、これで辻褄はあってるわけだが……夢じゃないとすれば、あの星灯先輩とお近づきになれたんだ。こんな嬉しい事はない。夢じゃないなら、説明がつかない事が多過ぎるし、きっと夢なんだろうが。


「ホームルーム始まらねぇな」


 担任がなかなか教室に来ず、退屈な待ち時間に飽き飽きしている直が後ろの席である俺の方を振り向く。


「あー、そうだなー」

「何、たそがれてんだよ、虹波」

「何でもねーよ」


 直を適当にあしらうと何時もの日常。星灯先輩への歓声、もはや悲鳴の様なキャーキャーぶりが聞こえてくる。俺はそれでも窓の外を見てたそがれにたそがれる。


 全く、とんでもなく人気ものだな……。


「あ、星灯先輩だ」

「今更かよ! さっきから皆騒いでんじゃん」

「いや、違くて。この教室に用があるみたい。やっぱ、あの銀髪はいいわぁ」


 俺はここでやっと目線を外から教室内に戻し扉の方を見た。直の言った通りそこには星灯先輩がいて誰かを探しているようだった。

俺は昨日の夢を思い出し、心の中で「夢ではお世話になりました」とお礼を言った。

 しかし、星灯先輩は何故か俺の方を見ているように見えるのだ。何故だろうか、と俺は疑問に思う。


「……虹波君」


 そしてまた、不思議な事に先輩の声が俺を読んだように聞こえたのだ。


「おまっ、いつの間に!」


 直は俺と先輩を二度見して叫ぶ。


「いや、違うから! こっちが聞きたいし」


「菅原! あの名寄星灯様をまたせんなよ」

「何、あいつー」

「名寄先輩? 何で、菅原!?」

「早く行けよー」


 自分の席からなかなか動こうとしない俺にクラスメイトは苛立ちを感じ口々に俺を攻める。

 しょうがないので、俺は辻褄の合うようシナリオを考えながら星灯先輩の元へ駆け寄る。


 俺が考えたシナリオはこうだ。昨日、俺は散歩に行き具合が悪くなり気絶。そこで俺を届けてくれた親切な女性というのは、星灯先輩だったのだ。


「あの……何か?」

「話があるの。今日、放課後あなた大丈夫? って虹波君……前髪どうしたの?」

「……そこは、敢えて聞かないでください。まぁ、放課後は大丈夫っすけど」

「じゃあ、私の教室に来てくれる?」

「あ、はい」


 用件だけ伝えると星灯先輩は俺の教室からすたすたと離れていった。

何の話だろう。

 早く席に着かないと担任が教室に入ってきた時気まずいので早歩きで俺は席に向かった。席に着くと、すぐに直が俺の胸ぐらを掴んだ。


「なあ! 先輩、何だって!?」


 何故、お前がそんな深刻な顔をしているんだ!?と心の中で突っ込みを入れる。


「………苦しい」

「ん? あ、悪い」


 直は胸ぐらを掴んでいることを忘れていたのか、けろりとした表情でしばらく掴んでいた手を離す。俺は掴まれた事でしわしわになった襟元を軽く正すと小さくため息をついた。


「はぁ、ったく。多分、昨日の事だろ? 体調悪くした俺を運んでくれたのが、星灯先輩だったんだよ」

「何だ、早く言えよ~。虹波の命の恩人だったのか」

「そうそう、命の恩人」


 そして、担任が教室に入ってきた事でロングホームルームが始まり俺たちの下らない会話は幕を閉じた。

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