表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
16/62

第16話 もう戻れない

「近いね」

「ここは……廃工場」


 良かった、人の大勢居る場所じゃない。

細い路地を進み、先輩と俺が出会った場所――廃工場の前に着くと、虎らしき、動物が妖魔と化しそこに居た。


「さっさと、片付けましょう!」

「うん。――クロスエンフォース」


 白い空間へと俺は移動した。スクリーンを存在させるべく、「オープン」と叫んだ。


「あの妖魔、蝶の時と同じ様な影響を及ぼすみたい」


 蝶の妖魔と言えば、自然を少し痛めつけらる、というものだった気がする。

 この妖魔もそうみたいだ。

 目を向けると廃工場の周りの林の葉が枯れ落ち、木本体はまるで強力な酸性雨にでも打たれたかのようだ。


「ちょ、お前なぁ」

「優希が悪いんでしょ。俺、悪くないし」


 妖魔の影から俺の耳に会話が飛び込んでくる。

 会話の主はこちらにどんどん近づいてきているようだった。


「……楓、優希さん……」


 俺もその二人には見覚えがあった、俺と先輩が出会ったあの夜、先輩を殺そうとしたやつらだ。

 あの日と同じ場所でまた会うなんて、神様に嫌がらせでもされてる気分だ。


「ふっ……星灯。久しぶりだな。クロスも居ないのに、妖魔を倒しに来たのか? 相変わらず、生温いな」


 燃えるような瞳に先輩を映し、優希さんは、にやり、と笑みを浮かべる。


「そっか……まだ、あの二人は先輩が俺と契約した事しらないのか」


 呟くと先輩の返事は無い。いつもなら、独り言にも反応してくれるのだが、やはり動揺しているのだろうか。


「……見くびらないでください。私はもう、あの時とは違います。クロスだって、居ますから」

「ほぉ、デスタルにまだお前の見方をする奴がいたのか」


 優希さんは興味ありげに、二、三度頷く。


「いえ、この世界の方です」

「人間……? そんな事、出来るわけ無いだろ!?」


 優希さんは何故か相当驚いていたが、その会話は楓により、遮られた。


「だから、優希! 話なんて、後にしてよ! 俺達、怒られちゃうじゃん!」

「はぁ? どうして、達なんだ! 怒られるのはお前だ! 普通に、学校に遅刻しそうになったお前が悪いだろ!」

「そうだけど、通路閉め忘れたのは優希じゃん!」


 はっはーん。大体、分かった。あの二人はこちらの世界に星灯先輩と同様。監視などを目的とし、派遣されていた訳だ。それで、俺達とは別の学校に通っている。

 で、今朝、デスタルからこちらに来る際、急いでいたため通路を閉め忘れた結果……昼間に妖魔が出現した、と。

生温いのはお前らだぁぁ! と言いたくなる展開だな……。


「先輩、さっさと倒しましょう」


「私、思ったんだけど、虹波君となら一発浄化出来ると思うの」

「相性的な問題ですか?」


 上に高く飛び、シールドを張る。

 妖魔を見下ろしながら先輩は頷いた。


 ”パージ”


 腕を前に突き出し、指で三角形を作る。ゆっくりと気体の波紋が広がり妖魔へと、触れる。


「失敗したら浄化しきれなくて、二度手間になっちゃうけど……」


 そう言った先輩とは裏腹に、現実は簡単に妖魔を消失させてしまった。


「普通にいけましたね」

「……そうみたい」


 地上に降り立ち、先輩は俺をこちらの世界へと戻した。


「クロスリリース」


「一発浄化とか、星灯強いねー」


 楓の嫌味を込めたその言葉に俺は少しムカついた。


「お前が、クロス……」


 優希さんは驚きを隠せない様子で、俺を見ていたがいきなり、ふっ、と笑みをこぼした。


「この世界の人間がクロスになる事は有り得ない。……お前、本当に人間か?」


 え…………?

 一瞬理解出来なかった。当たり前の事過ぎて、気にしたことすらなかった。


「人間……っすよ」

「優希さん、何が言いたいんですか?」


 俺の前に、すっ、と手を出し、俺を抑える。そのまま、先輩は優希さん、に問い掛けた。


「……そうだな。私が何を言った所で、お前はもう私の所には戻らないからな。……星灯、お前は私にとって妹みたいな存在だったよ。……じゃあな」

「あ、星灯、じゃあねぇ。優希、待ってよ〜」


「優希さん……」


 小さくなる二人の背中を見つめながら、消えそうなぐらい小さな声で呟く先輩がとても悲しそうで、俺はどうしようもなく見とれてしまったんだ。



「私ね、優希さんの事好きだったの。いつも、私を守ってくれて、本当……お姉ちゃんみたいな存在だった。……どうして、こうなっちゃったんだろう」


 寮に向かって歩いていると、先輩は静かに言った。


「大丈夫ですよ。俺がいるんですから、いつか分かり合えますよ。言ったじゃないっすか?先輩は言葉が足らないんですよ。もっと、自分の感情出しても良いと思いますけど」


 先輩を一人にしたりしない、絶対に。俺の中にあるたった一つの決意だった。

 夕日が俺達を照らす。先輩の影が俺の足元を覆った。


「ありがとう、虹波君」



☆☆☆


「名寄星灯……彼女は恐ろしい……」

「彼女の封印が解ける前に……例の人間殲滅を実行する必要がありますな」

「……もうそろそろ封印が解かれる頃か」

「計画の実行を急がねば」

「……名寄星灯に色がついてはいけない」


 デスタルの王達はそれぞれに口にする。計画の実行と封印。

 人間殲滅の計画実行の時は近づいていた――。


☆☆☆


「虹波、勉強会は俺の部屋集合で明日だかんな! 忘れんなよ」


 暇だったので、直の部屋に行くと、着くなりそんな事を言われてしまった。


「明日、土曜だろ?」

「は? だからだろ?」


 そんな長時間も、勉強するのか、と思うと憂鬱すぎる。


「はぁ……まじか」

「じゃっじゃーん! 見ろ!」


 目を向けると直の手の中に合ったのは、何枚かのテスト用紙だった。 しかも、点数がかなり酷い。数学五点、国語二十七点、英語二点……。

 俺はテストに焦っている直が良く分からなかったが、こういう事か、と理解する。こいつは、このままでは進級が危ないのだ。


「英語、どうした……」


 他も酷いが特に英語、二点は無いだろ。俺が取ったわけではないが、何故だかため息が出る。


「英語とか、やる意味だろ!! 俺達ジャパニーズピーポーには必要ないんだよ!」

「……お前、ジャパニーズピーポーって英語だぞ………」


 駄目だ、馬鹿すぎる。


 直には呆れる所が多過ぎて正直困るのだが、こいつがいなくては俺はきっと駄目になってしまうと思う。今だってそうだ。妖魔などという、この世界とは違う異様なものから、馬鹿馬鹿しい日常に連れ戻してくれるのはいつも直だ。

 感謝なんてこいつにするのは柄じゃないが、


「ありがとな、直」

「……うわぁ、気持ち悪っ!」

「お、お前なぁ!!!」


 全く、酷い奴だ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ