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第15話 平穏な日常

 午後の教室は朝に増して賑やかだ。冷房も教室の端にいる俺にまで届くほど効いているし、俺は昼休み後からの時間が好きだったりする。何をするにも快適だ。


「……五限目はロングホームルームか」

「きっと、あれだろ! 文化祭!」


 俺の独り言に直が反応する。独り言では無く会話と化された。


「文化祭?」

「そうそう。ここの文化祭って、二学期の後半だろ? だから、二学期の前半から準備するんだろ?」

「確か、部活動事に出し物するんだよな」


 俺の問いに直は首を縦に動かした。

文化祭か。期待せずにはいられなかった。貢奉部の皆と行事に参加出来るのだ。俺は心が高鳴るのを感じた。


「ほらほら、静かにしろ?号令」

「起立、礼、着席」


 担任が教卓の前に立ち、黒板に文字を書いた。

《文化祭 テーマ「ファンタジー」》


「今年の文化祭のテーマはファンタジーだ。各部活で、テーマに沿った店作り頼むぞ!」

「はぁい」

「だがしかし、お前らには定期テストという、たぁのしーい、企画もある事を忘れんなよぉ?」


 にやにやとそう言う担任の顔は正に悪魔だった。俺は勉強が特別出来るわけでは無く、何時も平均ぴったりにいる事が多い。

 中学の時なんてミスター平均!とか言われて姫子さんにからかわれたっけ。


「んじゃ、部室行ってどんな店だすか決めて来い! プリントに情報をまとめて今週末には提出な」


 そこから各自解散となり、俺達もその流れに乗って部室へと向かった。


「あ゛っつーい! 前よりは良くなったけどさぁ」


 部室の扉を開けるなりそう叫ぶ直に俺は同感する。

 どうして、冷房設備を設置しないんだよ……。


「虹波君と直君来たよ、花音ちゃん」


 先に部室内にいた星灯先輩は先輩の隣に座る遠山に声を掛けた。

それにしても、いつの間にか名前呼びになってるし。女子って仲良くなるの早いなぁ。


「どーもっす」


 俺と直は軽く頭を下げ、パイプ椅子に腰を掛けた。


「ファンタジーかぁ……何か良い案ある?」


 机の上に顔を押し付け疲れきった様子で遠山が問う。


「ファンタジーって魔法とか? 異世界とか?」


 先輩のその反応にデスタルとかが既にファンタジーじみてますよ、とツッコミを入れたくなってしまう。


「まぁ、そうね」

「じゃあ、不思議の国のアリスとかどうよ? 異世界じゃん!」


 自信満々に直が提案する。

 ファンタジー……なのかはさて置き直にしては良いアイディアな気がする。


「良いんじゃないかな?」

「確かにあれなら、お茶会が物語に登場するから、お店もそれに出来るよね」

「私も直君の意見良いと思う」


 俺に加え、遠山と先輩が同意する。部長である直が決まった内容を担任から受け取ったプリントにメモった。すると、ここで授業終了のチャイムが鳴った。


「はぁぁ。このまま文化祭の準備に取り掛かれば良いのに……テスト挟まるとかどんな鬼畜だよ」


 書き終わったプリントを手に持ちゆっくり立ち上がった直は深いため息をついた。


「直君は勉強出来ないの?」

「そうなんすよぉ……って星灯先輩は憂鬱じゃないんですか?」

「私は特に……」

「ええ!?俺なんかこんなに憂鬱なのに……」


 直のその反応に遠山は、


「だって、先輩二年の中で学力トップよ?ちなみに私は一年トップ」


「二年と一年のトップ!? ………ふははははっ、どうやら俺達と彼女らは住む世界が違うようだね、虹波君!」

「俺を一緒にするなよ。それと、お前誰だ……」


 ていうか、別にテスト何て卒なくこなせば何にも問題無いだろ?何をこいつはこんなに焦ってるんだ。

 無理やり肩を組んでくる直を横目で見る。


「じゃあ、皆で勉強会とかどうかな?」


 珍しく星灯先輩が提案する。

 確かに寮も一緒だし、二人も頭が良い人がいるし、で心強い他ない。


「お、お願いしますっ!」


 そう、机に乗り出し嬉しそうな表情をする直に、遠山が


「本当、馬鹿……」


 と呟いた。


「そういえば、遠山、直にもこの性格見せてるよな」

「いや、もうこのメンバーで使い分けとか面倒くさいなって思って。大体、笹神にどう思われても私、興味無いし」

「えぇぇ! 酷いよ、花音ちゃぁん」


 ――キーンコーンカーンコーン


 その瞬間、俺の頭には ”やばい” この三文字が並んだ。6限目の授業開始を知らせるチャイムだ。

 鳴り終わると、部室内にはそれぞれが、やってしまった感を感じ沈黙が走った。


「……いや、諦めるのはまだ早い! 俺は走るっ……おぉぉぉぉりゃあぁぁぁぁぁ!」

「そうね。くすっ……私も走るわ」

「何か楽しいかも……っ! 行きましょう、先輩」


 俺達はチャイムが鳴り終わってから、走り出した為、当然授業には全員遅刻。それでも、こんな日常が楽しかった。その中に自分や大切にしている人達がいるのだ。

 ……こんな時が、ずっと続けば良いのに。


 それは、6限目も後半に差し掛かった頃だった。


「……!?」


 ――妖魔?

 弱いが妖魔が出る時と同じ、不快感と違和感が俺を襲う。

 でも、そんな筈は無かった。時間が早すぎる。先輩の話でも、夜にしか出現しないと言っていた筈だ。


 ”虹波君”


 頭の中で先輩の声が響いた気がした。気のせいかもしれない。けれど、響いた先輩の声はどうしようもなく弱々しかったんだ。


「先生!すいません俺、体調悪いんで帰ります」

「あ、あぁ、分かった……。気を付けろよぉ?」


 がたっ、と勢い良く立ち上がると、即座に鞄を肩に掛け俺は教室を出た。


☆☆☆


 笹神直は窓の外、遠くを眺めていた。


「最近、増えてるな……妖魔」


 そう呟いた彼の眼差しはとても強いものだった。ぎゅっ、と拳を握り返す。


「笹神まで、どうかしたか?」


 心で呟いたつもりが、声にでてたようで少し聞こえてしまったようだ。笹神直は視線をこちらに戻すと、あはは、と笑い誤魔化した。


「何にも無いですよぉ! ほら、先生、授業しないと」


☆☆☆


 先輩も教室を抜け出して来ていたようで、俺と先輩は階段近くで合流した。


「先輩も気づきましたか?」

「うん。でも……まさか……」

「とりあえず、外に出ましょう!」


 俺と先輩は学校の外へと出た。学校内にいた時よりも不快感と違和感が大きくなる。


「妖魔がこんな時間に出るなんて……」

「人のいる所に出現してたら、かなり危険っすよ。急ぎましょう」


 先輩は、こくり、と頷き、走り出した。前を走る先輩を追いかけて走るが、足を前へ進める度、妖魔に近づいている事が分かる。


 早く、早く、見つけないと。――早く。


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