休息
日もすっかり暮れたその日の夜。
ホバライドの処分を終え、無事に帰還した俺達を真っ先に迎えてくれたのは医療班だった。
まぁ、怪我人もしくは死人が出る可能性が十分に高いのが遠征だからな。
実際ロンは重体? なわけだし。
医療班はイービルの肉片とロンを連れてさっさと行ってしまった。
俺達はすぐに父さんに報告をし、二十四時間の休暇が与えられた為、《地下都市》の共同部屋に戻って来ていた。
とはいえ、流石にハードな戦闘を行ったからな……俺は戻るや否やベッドに直行。そのまま八時間程度の睡眠をとった。
そして、翌朝―――目覚ましの音に促され目を覚ます。
(あ……そういえば昨日風呂入らずに寝たんだっけ)
思い立ったが即行動。俺は共同部屋の奥にあるシャワールームへと足を進める。
洗面場へのドアを開け、昨日から着たままの戦闘服の上を脱いでいると―――
―――ガラッ
誰もいないハズ……だと思っていたシャワールームから、きれいな銀の髪を携えた生まれたままの状態のリリィが出てきた。
……目が合う。
視線を下にずらすと、あれ? リリィは貧乳の部類に入ると思ってたのに……着やせするタイプなのか。ルシやランカ隊長には遠く及ばないが、それでも普通位はあるんじゃないか?
「お、おはよう。奇遇だな、俺も風呂に入ろうと思ったんだよ……」
焦らず、平然とした態度で挨拶を決める。
こういうときは冷静になるのが一番だ。
「ど……」
「ど?」
「どこ見て挨拶してんのよ! こんのエロメガネ―――――――――――――ッッッ!」
激しい叫び声を上げながら、リリィは立て掛けてあったGARLを俺に向けてきた。
ま、まさかとは思うがGARLをこんなところで撃つ気じゃ……?
「ちょ、ちょっと待てリリィ! そんなことしたら部屋が……」
―――時すでに遅し。
―――ドゴォォオオオンッ!
リリィの放った高電圧粒子弾は、俺の顔面横をすり抜け、盛大に壁を破壊した。
「あ、あは……あはははは」
「なに~? なにかあったの~?」
流石の爆音に気が付いたのか、ルシが眠気眼を擦りながら洗面場へとやってきた。
「あ~、リリスすっぽんぽんだぁ~」
「―――⁉」
ルシの言葉で我に返ったようで、リリィは顔を真っ赤にしながら急いでタオルを体に纏う。
「ねぇ? どうしてリリスは裸なの~? あ~! もしかして大地とお楽しみなの~?」
「え?」
ルシの発言にリリィが固まっているのが分かる。
ルシはまぁ、あれだからな。大人の癖に中身は完全に五歳児みたいな奴だからな。デリカシーとか羞恥心とか、そう言った類のものは一切持ちあわせていないわけで。
ルシのお風呂上りはいつも裸だから目のやり場に困ってるくらいだ。
ロンの教育上にもよろしくないぜ全く。
「違うの~?」
「ち、違うわよルシッ! このエロメガネが私のお風呂覗きに来たのよ!」
とんだ言いがかりだぜ……
「なんでもいいや~。ところで~、二人は今日どうするの~?」
「俺はロンの様子を見に行ってから、母さん達のところに顔を出すつもりだ」
何しろ入隊して以来忙しくて一度も帰っていなかったからな。
週休二日制なんて素晴らしい制度があった時代に生まれたかったぜ……。
「リリスはどうするんだ?」
「わ、私は……別に帰る場所もないし、ここでゆっくりしてるわよ」
少し曇った顔をしながら、寂しそうにリリィが答える。
理由はすぐに分かった。
リリィの父親はASに所属していたが、リリィが五歳の時に戦死している。
その翌年に、《地下都市》に現れた土竜の《賢者》によって母親も……。
リリィにとって、帰る場所と言えるような所は存在しない。
《地下都市》に住む人類は必ず心に深い傷を負っているが、それでも幼少期に凄惨な記憶を植えつけられたリリィの心を推し量れる奴なんてそうはいない。
俺は、少し呼吸を整えて、一枚のタオルに身を包んだその儚げな少女を見つめる。
「それならさ、リリィ。俺と一緒に来ないか?」
俺の言葉に、リリィの目が一瞬大きく見開かれた……が、すぐに元に戻る。
「いいわよ、せっかくの休みなんだし……それに家族水入らずの所を邪魔するわけにもいかないわ」
「気にするなよ。それに母さんにリリィの事を紹介したいしな。なんだかんだ言っても……その……は、初めて出来た『友達』だからな。お前は」
「と、友達⁉」
「ちっ、違うのかよ⁉ 俺は少なくともそう思ってたのに」
「い、いや……別に違わないけど……友達って……ああ、もう! 分かったわよ! 私も行くわよ!」
な、なんで怒ってるんだ? こっちは恥ずかしい思いをして言ったっていうのに……。
「ルシも行きた~い! いいでしょ大地~?」
「いいぜ。母さんもきっと喜ぶ」
わーい、と両手を上げて無邪気に笑うルシに返事をしながら、俺はさっきから言おうと思っていたことをぼそっと口にする。
「とりあえず、服着ようぜ?」
このあと、リリィにメチャクチャ殴られたのは、言うまでもない。