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Aシャッフル  作者: 朝野凛瞳
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寛大

「なるほど……事情は分かったよ。ランド・シャーク君は『人の姿をした猫』と、そう言ったんだね?」

「ああ、間違いない」

 俺からの報告を聞き終えた父さんは、何か思い当たる節があるかのように、顎に指を添わせ、考え込んでいる。

「……もし、それが本当だとしたら……いや、でも……」

「何か知ってるのかよ?」

 父さんは、誰から見ても分かるほどの戦慄の表情を浮かべていた。

「ランド君の言った通りだよ……確かに『人の姿をした猫』は、存在する。……大地、上級《賢者》については知っているよね?」

「聞いたことはあるぜ。未だ誰も見たことが無い、人と同等の知能を備えた《賢者》の事だろ?」

 存在が確認されていないから、俺達AS部隊の人間のほとんどは存在しない架空の生物だと思ってるけどな。

「そう、上級《賢者》は食物連鎖のピラミッドで言えば、上位消費者に当たる生物たちのことだね。奴らは、自らの生存確率を上げるために、人化を行う事が出来るんだ」

「人化? 人の姿に変身できるってことか?」

「うん。そしてそれが、見た人間がほとんどいないカラクリってわけ。まぁ、奴らの考えからすると、本当の姿を見られたら殺せばいいって感じだから、それも存在が疑問視されているファクターになり得るね」

 なるほど、誰も見たことが無いわけじゃなく、見た人間がこの世にいないってことか。

 確かに、恐ろしい話ではある。見たら最後、生き延びれる可能性はほとんどないわけだからな。出来ればこの先対峙したくない連中ではある。

 でも……だからこそ―――

「……父さん。残りの【ツクヨミ】隊の隊員の捜索を、俺達にやらせてくれないか?」

「なっ⁉ 今の話聞いてたよね? 奴らに出くわせば生きて帰ってくることはまずないんだよ⁉」

 父さんから、聞いたこともないような大きな声が俺の耳に響く。

 危険な事は重々承知だ。けど、父さんから何を言われようとも、俺は最初からそのつもりでここに来た―――指示が他の部隊へと流れてしまう前に。

「俺は、【ツクヨミ】隊の一人が死んで行くのを目の前で見た。つまり、俺はもう関わっちまったって事だ。第一発見者が状況をいち早く理解し、動くことが他の【ツクヨミ】隊の隊員の生存確率を飛躍的に上げると俺は考える。父さん―――俺は、人類の為ならこの命を擲つ覚悟は出来ている。それがたとえ誰であってもだ」

「大地……」

 目の前で手が届くかもしれないのに、何もできずに終わって行く。

 助けられる命があるかもしれないのに、何もせずにただ傍観者のままで終わる。

 ―――それだけは絶対にしたくない。

 父さんは、しばらく黙っていたが―――

「大地。君は、AS部隊【ロキ】の一隊員でしかない。今の発言はあくまで君個人の意見であって、【ロキ】隊の意向ではないはずだよ。もし、君がここで判断を見誤り、不本意の状態の仲間を引き連れて行って、もしものことがあれば、君に責任は取れるのかい?」

「そ、それは……」

 予想もしなかった返答に、思わず言葉が詰まる。

「同じ人類、巡り合わせが違えば、共に闘っていたかもしれない人間を救いたい。その気持ちはとても大切だ。そんな子に成長してくれて僕は本当に大地を誇らしく思う。自慢の息子だよ。でも、君の今の発言に、僕は疑問を感じた。『俺達にやらせてくれ』―――その言葉は、自分はAS部隊【ロキ】の一員であり、行動は全て隊単位でのみ行われることをきちんと自覚している言葉だ。けど、そのあとはどうだい? 『俺は関わってしまった』『俺には命を擲つ覚悟がある』―――その言葉の中に、自分の仲間のことは含まれていたのかい?」

「い、いや……」

「いなかったよね。大地。君に、自分の身勝手な意見で自分と親しい人間を危険にさらす覚悟は……いや、そんな権利があるのかい?」

 俺の一歩も二歩も上を行く父さんの言葉に、俺は、返す言葉が思い浮かばなかった。

 確かに、目先の事ばかりで、俺は全く先の見通しを立てることが出来ていなかった。

 自己中心的解釈で、周りのことを、何も……

 俺がうなだれているのを確認してからか、父さんは諭すように言った。

「この件については、僕は一人の人間の意見しか聞いていない【ロキ】隊に一任することはしないよ―――ただし、これが【ロキ】隊全員の意向というのであれば、話は別だけどね」

 その言葉の向けられた先は、俺の方ではなかった。

「―――【ロキ】隊は、火野大地の意見を我が隊の総意として、火野総指令に【ツクヨミ】隊の捜索の任務を承りたく存じます!」

 振り返ると、そこには、リリスが連れてきた【ロキ】隊のみんながいた。

「西園寺蘭香さん。君が発言するという事は、【ロキ】隊全員が命を賭けてこの任務に当たる……と、そう捉えて良いんだね?」

「もちろんです。私達の目的はあくまでも人類の地上奪還。ASに入隊した時から、この命―――神にではなく、人類に捧げる覚悟は出来ています」

 ランカ隊長に続いて、みんなが一斉に頷いた。

「ランカ隊長……みんな……」

「勘違いしないでよね。同じ志を持った仲間を助けたいのは、あんただけじゃないんだから」

「リリィ……」

 俺は、ゆっくりとみんなの方に歩いて行き、そして父さんを眼前に据える。

 それを見た父さんは、やれやれといった様子で……

「……仕方ないね。AS部隊【ロキ】に―――行方不明の【ツクヨミ】隊の捜索及び上級《賢者》の調査の任務を与えます。言っておくけど、地上を奪還しても肝心の人類が全滅……では話にならないからね。全員生きて帰ってくるんだよ?」

 その父さんの言葉に、【ロキ】隊全員の返事が重なった。


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