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Aシャッフル  作者: 朝野凛瞳
3/14

邂逅

講義室を後にした俺たちは、俺達が所属するAS部隊【ロキ】の仲間が共同生活を送る地下三階の部屋へと戻って来ていた。

「火野大地、リリス・ストーンフリ―、ただ今帰還しました!」

 『304』と書かれたスライド扉を開き、俺はすぐさま調子の良い声を張り上げる。

「アハハハッ! ロンにババ行った―♪」

「今のズルイですよルシさん! 僕が取ろうとした時に、左右入れ替えましたよね⁉」

「……」(俺)

「なんのことかな~? ルシはズルなんかしてないよ~、ね? ランカ♪」

「私は何も見てないぞ」

「そんなぁ、隊長まで……」

「―――火野大地! リリス・ストーンフリ―! ただ今帰還しました!」

 どうやらババ抜きをしているようだ。

 俺はさっきの数倍の、部屋が震えるほどの大きい声を響かせる。

 ゲラゲラ笑っていた三人は、その声でようやく気付いたようで……。

「あれ? 大地にリリスだ~お帰り~」

 と、ルシと呼ばれた金髪ボブカットの女の子が甲高い声を上げる。

 ルシ・ブロスフェルトは、旧ドイツの諜報一族の末裔だ。

 ルシの一族は、各国にスパイとして潜り込み一度潜り込めば生涯、その国の人間として生きなければならないらしい。ルシの父親が、送り込まれたスパイだったそうだ。

 そしてルシは、世界中に一斉に《賢者》が解き放たれた【終焉の月曜日】があった年に生まれた、数少ない女性の一人。

 つまり、俺とリリィにとっては四つ年上のお姉さんに当たるわけなのだが、その幼い容姿のせいであまり年上として接したことが無い。

「またババ抜きか? よく飽きないよな、ルシも」

「だって~二人が帰ってくるまで暇だったんだんだよ~?」

「まぁ、なにより、二人が無事で良かったよ」

 ルシの左隣から、大人びた声が響く。

「ランカ隊長! 私達やりました! 地球奪還計画への第一歩を私たちが切り開いたんですよ!」

 と、声の調子を上げながら、リリィが満面の笑みを向けた相手の名は、西園寺蘭香。ストレートロングの美しい黒髪に必要最低限の肉を付けた端正な顔立ち。二十二歳でAS部隊【ロキ】の隊長に選ばれた天才だ。

「ああ、おめでとう。これでロキ隊もようやく前線で戦う事が出来るな」

「え……それって……?」

「そういえば、お二人は知らないんですよね? 地上開拓は五年前から既に始まっていたってこと」

 ………………………………………………………………………………え?

さっきルシに文句を言っていた少年―――弱冠十歳にしてその才能が認められ、入隊一か月で一小隊の参謀を任せられたチビ……もとい天才黒ぶちメガネであるイギリス人、ロン・ハードハットの一言で、俺とリリィは一瞬にして固まってしまった。

「ど、どういうことだよ?」

「今日お二人が開拓した場所は、非常出口にあたる場所なんです。正規の出口は三年前に開拓が終わって、そこから定期的に遠征隊も派遣されているんですよ」

「つ、つまり……」

 リリィが、聞きたくない情報を恐る恐る確認すると―――

「お二人に知らされていなかったのは、おそらくお二人の士気を上げるための総司令官の指示かと……」

 その瞬間、固まっていた俺とリリィは砕かれた氷のように膝をついた。

(は、は、恥ずかしいぃぃぃぃいいいいっっっ!)

さっきまで、俺、ドヤ顔で父さんに『ああ、楽勝だったぜ!』とか言いながら親指立てちゃったりしたのに……父さん絶対心の中で爆笑してただろ……。

「いやだ……なんかもう、死にたい」

「でも結果的に~、任務達成できたんだから、よかったよかった♪」

 ポンッ、とうなだれる俺の肩にルシが手を置いた。

「そうだぞ大地。どんな形であれ、お前たち二人は結果を出したんだ。自信を持て」

 確かに、蘭香隊長の言う通り、俺たちは二人だけで任務を達成した。それは紛れもない事実だ。

 この一カ月、失敗して失敗して失敗しまくって、やっと任務達成したんだ。

「ありがとうございます、蘭香隊長。俺、なんか自信湧いてきました」

「そうか、それは良かった。で、帰ってきて早々で悪いのだが大也、お前は『ラジコン』の操縦は出来るか?」

 不意に蘭香隊長が俺にそんなことを聞いてきた。

 『ラジコン』って言えばあれだよな? 確か小型のヘリのようなものをリモートコントローラーで操作する……

「……ええ、小さいころに何度かやったことは有りますけど、それがどうかしたんですか?」

 俺が言うと、蘭香隊長、ルシ、ロンは一斉に顔を見合わせ、ニヤリと口角を上げる。

 そしてロンが俺にゲームのコントローラーのようなものを手渡して来た。

「実はですね、お二人が任務に言っている間に、僕が作ったんですよ。従来のラジコンにカメラを搭載した偵察機を」

「偵察機?」

俺と同様状況が飲み込めていないリリィも首をかしげながら言う。

「ええ、ラジコンに内蔵したカメラが捉えた映像を僕のパソコンのモニターに映し出すんです。地上をさらにその上から見た景色、見たくないですか?」

「地上を……上から……」

 想像もしたことのない話だ。何せ俺たちはついさっき初めて地上に出たばっかりで、それまではずっと地下で生活してたんだからな。

 だが、興味はある。かつて人類が過ごした世界、そして父さんが半生を過ごした地上というものに。

「わかった。操縦してやるよ」

「ありがとうございます。僕、作るのは大好きなんですけど操縦とかはどうも苦手で……」

「で、肝心の偵察機はどこだ?」

 俺が言うとロンは部屋の片隅にある机の上のパソコンを開き、電源を入れる。

 すると、画面には俺達がさっきまでいた地上の景色が映し出される。

「ルシが地上にセットして来たんだぁ~。任務以外で地上に出るのは禁止だから、ちょっと頑張っちゃった♪」

 さすが諜報一族の末裔。のほほんとしているが、そういう行動はお手の物だな。

「よしっ。じゃあ、行くぞ?」

 と言ったものの、ロンが渡して来たコントローラーは、本来ゲームをするためのもので、ロンがラジコン用に改良していたので、簡単に操作方法を教えてもらい、俺は偵察機を作動させた。

「すごい。景色がちょっとずつ上昇してる……」

 リリィが思わず感嘆の声を漏らす。

 モニターを通して映し出される景色はどんどん上昇していき、ついに広大な地上の景色が、俺達の前に姿を現した。

 一面に広がる青。文献でしか見たことが無い緑の山々、そして、海と呼ばれる広大な水たまり。

「これが……地上」

 人類は二十年前までは、この無限に広がる世界に七十億も存在し、繁栄を続け、そして、追い出された。

 偵察機を少し下に傾けると、人工であろう建造物が多数見られた。もちろん植物の緑には覆われている。人のいなくなった建物を地球が取り込んだ、と表現するのが一番分かりやすいかもしれない。それほどまでに地上は、安らか(・・・)だった(・・・)。

「父さんは、地上は人間の手で環境が破壊されて、手のつけられない状態になっていたって言ってたが……」

「全然そんな風には見えないわね。だってこんなにきれいなのよ?」

 リリィの言う通りだ。確かに人工建築物の後は見られるが、それでも、人類が二十年前にこの地上を脅かしていたとは到底思えない。

 俺は、偵察機を前進させ、広大な海が広がる方角へと向かった。

 すると背後で見ていた蘭香隊長が―――

「大地、モニターの左奥、何か見えないか?」

「左側ですか?」

 蘭香隊長がそう言うので俺はモニターの左側に視点を向け、その方角に向かう。

「やはり……見ろ、こちらからの巨大な橋でつながったあの島、何かあるぞ」

「あの島って確か、淡路島……だよな。日本誕生の最初の島っていう……」

 蘭香隊長が指した島、『淡路島』は、古い書物によると確か、日本で最初に出来たとされている島だ。本島とあの島を結ぶ橋は『明石海峡大橋』だろう。

 だが、淡路島があることだけは確認できるが、それ以外は遠すぎて何も見えない。

「もう少し近づいてみます」

 偵察句を近づけると、徐々に島が画面上で大きくなっていく。

そして、その全様が具体的に見え始めた時―――

「あれ~? なんかおっきい建物があるよ~」

 ルシが言ったのと同時に、ここにいる全員が、蘭香隊長の言った『何か』の存在に気が付いた。

「なんだ……これ……っ⁉」

 俺達の画面の前に現れたのは、今までの建造物とは比べ物にならないほどの巨大な建造物。しかも、明らかに今まで見た人工物とは作りが違う。

 頂上が尖った円錐だ。

 そして偵察機の高度を下げ、さらにその謎めいた建造物に接近し―――俺達はとんでもない光景を目にした。

「セ、《賢者(セージ)》⁉ それも、なんて数なの⁉」

 リリィの言う通り、巨大な建造物の周辺には、巨大化しているため一目でわかる《賢者》達が大量に蔓延っていた。

「まるであの建物を守ってるみてぇだな」

「大地、偵察機をもっと建物に近づけてみてくれ」

「わかりました」

 蘭香隊長に言われた通り、俺は偵察機を円錐型の建物の一番上の所へと近づける。

 建物は……ガラス張りだろうか、内部構造がはっきりと見て取れる。

「これを《賢者》どもが造ったと言うのか? ……この二十年の間に」

「みて! 建物の一番上、何かいるわ!」

 リリィが叫ぶ。映像を拡大すると、建物の最上階の部分に、確かに―――いた。

 真っ赤な玉座のような物に腰掛ける、人間(・・)が。

「に、人間じゃないですか⁉ 有り得ません! 地上に人類は一人たりとも生存していないはずです!」

 ロンの言う通りだ。《賢者》が地上に現れて以来二十年、地下に命からがら逃れることの出来た人間を除き、人類は食物連鎖の最下層へと追いやられることになった。

 つまり、全員―――捕食(たべ)られたはずだ。

 一瞬、人間の《賢者》という可能性も頭をよぎったが、すぐにかき消した。

 人間の《賢者》は父さん達が保護していると言っていた。こんな敵の本拠地(アジト)のような所にいるはずがない。

「もっと拡大してみるか……」

 コントローラーを動かし、カメラの倍率を限界まで上げる。

 映像が大分見えづらくなってきた―――その時。

 偵察機が映し出す映像と、玉座に鎮座する人間との視線が合った。

「「えっ…………?」」

 俺と、リリィの声が重なった。

 ほんの一瞬だった。

 偵察機が捉えた映像に映った人間は、俺とリリィがついさっき対面したばかりの人間と全く(・・)同じ(・・)()を(・)して(・・)いた(・・)。

 輪郭のはっきりとした顔に蠢く漆黒の模様に、特徴ある青の髪はバンダナで上げている。

 その人間の名は―――火野大也。

 父さんが、GTを手に持っていた時の顔と同じだった。

 刹那、偵察機からの映像は何者かの干渉を受けたように、ノイズを発生させプツリと途絶えた。

「だ、大也……今の……」

 リリィの声に、俺は応じることができなかった。

 不信感だけが、俺の頭の中を埋め尽くしていく。

「大也? どうしたの~?」

「どうしたんですか?」

「大也、あの人間に見覚えがあるのか?」

 見間違いではない。それはリリィの反応を見てすぐに分かった。

 一体、何がどうなってるって言うんだ……?

 自分をもう一人の父さんだと言っているあいつは、一体何者なんだ? 本当にただの二重人格者なのかそれとも…………

 しばらく俯き、そして俺は考えるのを止めた。

 そうすることでしか、自分を維持できないと判断したからだ。

 

 ―――2035年3月15日、この一瞬の画面越しの邂逅が、全ての始まりだった。


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