改良
「ふぅ、今日の予定ってこれで終わりなの?」
「ああ、これからどうする? まだ三時くらいだし、何かやりたい事とか無いのか?」
「私は特に……」
基地いる医療班に塩を送り届けた後、今日の予定という予定はすべて終えてしまった俺達は、【ロキ】隊の共同部屋で時間を持て余していた。
何分休みなど貰ったことの殆どない俺達は、休日の過ごし方というものがまるで分らない。
リリィもルシもばっちり私服に着替えてはいたが、帰って来るや否やASから支給されている制服に着替えていた。
リリィ曰く、制服じゃないとどうも落ち着かないらしい。
制服といっても、物質的資源の限られている俺達なので、現在はASの基地となっている旧如月高校の制服を改良したものだが。
「は~い! ルシはやりたいことあるよ~」
手を高々と上げ、ルシが俺達に何か提案しようとする。
「何するんだ?」
「ん~とね~、武器の改良だよ~」
「G武器の? 改良なんて出来るのかよ?」
「勿論だよ~」
G武器が改良できるなんて初耳だぜ。というよりも、ルシからそんn提案が出た事のほうが驚きではあるけどな。
「二人のG武器ね~、初期状態のままだからメチャクチャ弱いんだよ~。あのネコちゃんに苦戦したのもそのせいだよ~」
「ちょっと待ってよルシ。ってことはルシのGHTは改良してるの?」
「そだよ」
リリィの質問にうんと頷きながら答えるルシ。
なるほど。ルシは実力だけで言えばAS部隊の中でも最強と謳われる【ゼウス】隊に匹敵すると噂されている。だから、イービルの足を切断した時も納得がいっていたんだが、そういうカラクリがあったのか。
「二人は前にカマキリちゃん倒したよね~?」
「ああ。それがどうかしたのか?」
「その時『賢者の石』回収した~?」
「してないわよ。だって『賢者の石』の存在を知ったのもさっきだったんだから」
リリィの言う通りだ。俺達が【カマキリ駆逐作戦】を遂行した時に『賢者の石』の存在は知らなかった。
「たぶんね~、ASの回収部隊がカマキリちゃんの『賢者の石』を回収してると思うんだ~。武器課にあると思うから行ってみよ~よ」
「『賢者の石』を使って何か出来るのか?」
「それは行ってからのお楽しみ♪」
ルシは笑みを浮かべながらそう答える。
ということで、俺達の予定はG武器の改良ということで決まってしまった。
共同部屋を出て、ルシに促されB2にある武器課へと足を運んだ俺とリリィは、初めて立ち入る武器課の異様な雰囲気に圧倒されていた。
武器課の研究室の入り口に入る前に、仰々しいマスクの装着を強いられ、消毒作業などの工程を経て、俺達は入室を許可された。
研究室には、緑色の不気味な液体に浸けられた丸い球が無数に配置されている。
奥に進むと、俺達のよく知る様々な種類のG武器が調整工程に掛けられていた。
「G武器というのは、ご存知の通り《シャッフル》の能力を応用して作っているわけなんですが、その精製に必要なシャッフル合金は滅多に取れない貴重な鉱物なんですよ」
案内をしてくれている研究員が、丁寧にも解説をしてくれる。
戦死した隊員のG武器の回収を義務付けているのも、そういった事情が絡んでいるんだろう。溶解してリサイクルしなければ生産が追い付かないほど、シャッフル合金は不足しているというわけだ。
「さ、着きましたよ。ところで、ルシ・ブロスフェルトさん……あなたは本当に噂通りの人ですね。まさか我々が下級《賢者》の『賢者の石』の回収を秘密裏に行っていたことまで見抜いているとは……」
「えへへ~」
「噂ってどんな噂なんだ?」
「ナイショだよ~」
聞けば聞くほどルシの謎は深まっていくばかりだ。
そんなことを言いながら、俺達が案内された部屋には、一つの白く光る小さな玉が置いてあり、研究員に促され、俺とリリィは自分のG武器をそれぞれのG武器に適した台の上に置いた。
「AS兵が任務において撃退した《賢者》の『賢者の石』は、その当人達のG武器の強化に当てることが認められています。今ここにあるこの『賢者の石』は、あなた方が倒し、我々が回収した下級《賢者》のカマキリのものです」
白い手袋を付け、研究員はその白く輝く小さな玉を手に取り、俺達に見せてくる。
『賢者の石』にはそういった活用法があるのか……。
人間の科学の可能性にも底が見えないぜ。
「これが、あのカマキリから得た『賢者の石』ってわけか……」
「キレイ……」
淡い光に飲み込まれそうだぜ。ダイヤモンドやルビーを見て感じる美しさとは、種類が違う。もっとこう、神秘的な何かを感じる。
「下級《賢者》の『賢者の石』ですので、大幅な強化とはいきませんが、初期状態のG武器に比べれば性能は格段に良くなるはずです。カマキリなので、『切れ味』や『軽量化』などといった所でしょうか」
「その《賢者》に応じて性能も変わってくるってわけだな」
「その通りです。例えばルシさんのGHTなんかは、全G武器の中でも現時点で最高ランクのスペックを誇っているんですよ。何せ上級《賢者》の『賢者の石』を五つも使用していますから」
「い、五つも⁉」
リリィも驚愕の声を上げた。
俺達の目からは、お世辞にも強そうには見えないどころか、どこか頼りない雰囲気を醸し出しているルシだが……一体この世界はどうなってやがるんだ?
もっと不思議なのは、そんなルシが俺達と同じ【ロキ】隊にいるってことだけどな。
ルシを見ると、研究員に自分のGTSを褒められて嬉しかったのか、マスク越しでもわかるドヤ顔で、仁王立ちになっていた。
意外と態度に出るんだよな、ルシって。
「さて、前置きはこれくらいにして、改良を始めましょうか。一度改良を行うと、元には戻せませんが、お二人とも問題ありませんね?」
「「はい」」
俺達の返事を確認した研究員は、俺とリリィのG武器の間にある、細身の台にカマキリの『賢者の石』をセットし、その下にある何やら怪しげなボタンを押した。
すると、『賢者の石』から出ていた淡い光は、より一層美しく輝きだした。
五秒ほどして、発光は治まり、研究員は俺にGTを返してくれた。
「見た目は変わってないみたいだな。追加機能とかは無いのか?」
「はい。下級《賢者》程度の『賢者の石』では……。実戦で使用してみないことには何とも言えませんが」
「まぁ、当然だよな」
どんどん《賢者》を倒して、『賢者の石』を回収すれば、俺達も強くなれるってことだ。
「明日は【邪悪猫駆逐作戦】を行うんですよね? 出来るだけ『賢者の石』は破壊しないようにお願いしますよ? 我々の研究材料としても貴重なものなんですから」
「ははは……頑張ってみるよ」
あのイービル相手に、そんな余裕はこれっぽっちも無いとは思うがな。
愛想笑いをしながら、そんなことを思っていると―――
―――ピッ……ガガッ……
古びた二十年前のスピーカーから、機械音が流れ始めている。
基地内放送だ。これを使うのは殆どの場合……
『……緊急招集の連絡をします。AS部隊【ロキ】・【アポロ】・【ヘルメス】は、至急総司令室に集合してください。繰り返します……………』
父さんの呼び出しだ……しかも三つの部隊が同時に……?
「なんだろうね?」
「行ってみりゃわかるだろうよ」