3-37
纏うオーラに恐怖を覚える。それは決して触れてはいけないあの集団と同じ、ドス黒いオーラ。
「くそっ!」
「だからダメ!」
今にも殴りかかりそうな香川くんを必死で止める。彼も辛うじてわかってくれているが、いつ殴り合いになるか……。
「弱虫だねー。そう思わない? 絵理」
森谷くんは絵理ちゃんを抱き寄せる。絵理ちゃんは迷いながらも小さく頷く。
「そんなんだから、サッカーも彼女も、何もかも奪われるんだよ! 傑作だよ本当に! 負け組の人生ってのは!」
私の静止は簡単に破られる。運動神経の良さなのか森谷くんの元へは瞬きをしている間もなくその拳が振られる。
それが当たらないなんて私には予想も出来なかった。
「ダメ!!」
絵理ちゃんが森谷くんを庇ったのだ。殴られる覚悟で飛び出たのか待ち構えているようだった。
「……なーんだ。面白くねぇな」
森谷くんの声の調子が変わる。
「まぁ、ゴミはゴミみたいな生活してればいいんだからな」
絵理ちゃんの腕を引き、私の横を歩いていく。
「なぁ、そう思うだろ?」
耳元でささやかれた言葉は私の心を突き刺した。
夏の風。人知れず上がる気温。暑さなんて気にしなければ汗さえ出ない。
脂汗。弱みというナイフをのどに当てられているようだ。抵抗のしようもない。私は彼に従うしかないのか。そう思うほどそのナイフはよく切れる。
目の前の彼が膝をつくなんて微塵なことのように、私は桜の木を見た。今日も美しくことの流れを見ているだけだった。