3ー35
夏休みの予定も決まったので私は一足先に帰ることにした。他の2人は部活やら約束やらでまだ学校に残るそうだ。私も次の物語の打ち合わせしなければならないので、今構想しているものをプロット化しなければと考えていた。
階段を降りようとした。特になんともなく、一段を降りようとした。
「何回言ったらわかるんだ?」
「ごめんなさい! ごめんなさい!」
思わず足を止めた。喧嘩? それにしては聞き覚えのある声だ。声は上の階、多分屋上前のロータリー的な所からだろう。
(あざがあるんだ!)
(助けてくれよ!)
ふと蘇る言葉。私は意を決して階段を登ることにした。
「いい加減にオレの足を引っ張ってくれるなよ。使えねぇ雌豚が!」
「いやっ!」
3段登ったところで怖くなる。禁忌を犯す様で、触れてはいけないような気がして、怖かったのだ。
それでも音が出ないようにゆっくりと登る。
「あぁあ。汚れちまったじゃねぇかよ!」
「やめてっ」
鈍い音が聞こえる。ドスっ、ガスっ、まるで酷く撲られているような擬音語が私の耳に入ってくる。
ようやく折り返し地点にたどり着く。きっとそこにいる。そう確信をもって上手く隠れながらその様子を見た。
しかし、すでにことは終わっていた。
「ごめんね。でも、言うこと聞かないのが悪いんだよ」
「……ごめんなさい」
間違いなく森谷くんと絵理ちゃんのふたりである。倒されていたのか床に寝そべっている絵理ちゃんを森谷くんが優しく起き上がらせていた。そして熱く抱擁をする。見せ付けられているようだ。愛と言うものを。