3ー33
結局謝れなかった。挨拶ひとつで窓を閉めたのだ。なんて思われただろう。もう、嫌気が差しただろうか。
「お! おはよう!」
急に肩を叩かれ、元気な声で吐かれた挨拶は耳をつんざく。誰だよと後ろを向くと、この時間では有り得ない顔がそこにあった。
「おはよう、ともちゃん。ってかはやいね」
「失敬な! 人を遅刻魔だと言わんばかりに!」
「そこまで言ってないし」
「むしろ無遅刻無欠席だ!」
まぁ、そんだけ元気なのだからそれもそうだろう。溜め息ひとつ、歩き出す。
「なんか元気ないね」
「ともちゃんが元気なの」
「そんなことないよ! 今日は絶不調」
「どこが?」
「お腹痛い」
「あら、大丈夫?」
「死にそう」
そう見えないのはツッコミ待なのだろうか。
「ほれほれ、私のことはいいから悩み事なら聞きまっせー」
ふと見上げた空。薄い雲が段々と消えていく。
「もしさ、気になっている人に絶対に知られたくないこと知られたら、どうする?」
直ぐに返答はなかった。一緒に空を見上げて、そして一緒に視線を下ろした。
「そういうのってさ、知られても良いような人が結局は好きな人なんじゃん?」
そう言って2歩前に出るともちゃん。
「私に彼氏がいるとかさ、知ってるじゃん?」
「でも、それが誰だかまだ知らないんだけどね」
「それはそれ、これはこれ」
都合のいい話だ。
「それでも、内緒を話せる相手が、本当の、信頼の出来る相手なんだと、思うんだけどな……」
思い返した。私の内緒を彼に知られて私はなんて思ったのか。深く記憶を抉る。
「まぁ、人生なんてどうにでもなるさ。いいことしてればお天道様がご褒美くれる」
「おばあちゃんのお言葉ですね」
「そうそう。今じゃおばあちゃんがお天道様だけどね」
また見上げる空は綺麗に晴れ渡っていた。まるで、ともちゃんに合わせるように。
「よし、悩み聞いたからたこさんウインナー多めに頂戴よね」
「嫌だ」