3ー32
それ以降、私をいじめる人は居なくなった。完璧なほどに紳助に守られたのだ。
私は紳助から離れなくなった。離れた恐怖が私の心に深く刻まれていたのだ。
ずっと助けられていた日々。夢に見ているそんな日々。いつまでも続く気がしたそんな日々。
目を開ければそこには天井があった。変な話だ。当たり前の事なのに特別に感じる事が、既におかしいのだ。
いつの間にかベットで寝ていたらしい。布団のシーツには涙の跡らしき染みが出来ていた。外は薄暗いが蒸し暑さを感じる。もう夏なのを忘れていたかのように、今さらになってその全てを感じている。
「謝らなきゃ……」
立ち上がり散らかっている部屋を見回して後悔が込み上げる。破壊で生まれるものなんて、所詮高が知れる。
霧ガラスの窓を開ける。途端に目に入る太陽の光。何色なんだろうと感じる前に鳥のさえずりが朝を色づける。湿気を孕んだ風は私の髪をイタズラになびかせ、夏本番とも言える暑さが肌を汗ばませた。
向かいの窓は開いている。薄暗い室内に人気はない。あいつ、今日はどこで寝ているんだろう。
いつものように眺めていたその部屋も、知らず知らず向き合わないようになっていた。思春期。簡単な言い訳。本当の理由は考えない。だって、怖いから。
急に吹き抜ける風に私は目をつむる。今までそんな感じではなかったのに。
「おはよう」
目を開けるとそこには、いつものような笑顔があった。