3ー30
昔むかし、そう、私が小学生くらいだったくらい昔。朝から晩まで飯田紳助こと、幼馴染みであり私の憧れだった人と一緒にいた。登校、お昼休み、下校、放課後の遊び、寝る時間、何もかも。毎日窓辺で話す他愛もない事に心を踊らせた。
眉目秀麗。彼を表す上で欠かせない言葉であった。誰からも好かれ、誰からも愛され、誰からも注目を浴び、誰からも妬まれる存在だった。
その白羽の矢がそんな私に向けられない訳がなかった。初めは気にするほどでもなかった。お気に入りだった消しゴムが消えたり、教科書に覚えのない落書きがあったくらいだった。そんなに気にすることはなかった。
その頃から小説を書いて、出来ては紳助に見せていた。その頃はファンタジーものを書いて、その後どうなるかとか相談しながら、半ば遊びの延長でやっていた。
紳助に見せる為に書いたものを持って、いつも待っている木の下まで急いで行こうとランドセルを背負って駆け出す。
下駄箱で複数の女子がキョロキョロと見回していた。誰か探しているのだろうか。そう思いはしたが気にせず履き変えようと下駄箱に近寄る。
「みーつけた」
胸ぐらを掴まれて下駄箱に押し付けられる。
「ねぇ、ブス。紳助くんに近寄らないでくれない? 目障りなのよ」
「言ってることわかる?」
「コイツ、バカらしいよ。テストの点いつも酷いって」
「そんなんで紳助くんの側にいるとか、マジで笑えないんですけど」
なにが起こっているのかわからなかった。下卑されているのも気が付かず、今の状態が私を混乱させていた。
「はい、リピートアフタミー。紳助くんには今後2度と近づきません」
え? 何を言っているの?
「早く言い返せよ! 英語の意味もわからねーのかよ! ほら! 紳助くんには今後2度と近づきません!」
怖い。足が震えて立ってもいられない。なんでこんな目にあわなければいけないの。
「今後……2度と……」
「のろま! さっさと言えよ!」
恐怖。ただそれだけしかない。
「それで、オレと2度と会わない約束してくれたのは君かな?」
その声に驚く集団。肩にぽんと置かれた手にその子達は後ろを見た。
「し、紳助くん! これは……ね! 違うの、ただね!」
「うせろ」
それが最初で最後だったかもしれない。紳助が本気で怒ったのは。