3ー29
「こんなもの! こんなもの!」
細かく細かく。もう読めないくらい細かく破く。手に張り付いた紙は床に投げる。
「全部、紳助のものだもん!」
彼は悲しい顔をする。惨めに泣く私を哀れに思っているのか、しかしそれでも私をまっすぐ見る。
「もう! 私に関わらないで!」
急に体の力が抜けて床に座る。自分の涙を見ないように強く目をつむり、嗚咽を我慢する。
「……わかった」
その一言の後に扉が静かに閉まる音だけが聞こえた。
静寂。嗚咽が聞こえ、自分がとうとう泣いている事を自覚すると吐き出すような声を出して泣く。
そんな姿を幽体離脱をして傍から見ているかのような錯覚に陥る。こんな風に、私って泣けるんだ。そんな事を考えながそれでも熱くなった感情を抑えることは出来なかった。
きっと月は笑っている。モノクロに埋もれた私を遠目に見て嘲笑っている。色のない私を浮き出すようにより強く光っている。
こうやって文字でしか、感情を伝えられないのに。私はきっとこの時に辞めることを決意したのだと思う。
菊川瑞希の物語が最後まで報われないなんて考えもしないで、幸せを探していたのかもしれない。
切り刻んだ紙切れのひとつを拾い上げる。そこには「の」だけが書かれていた。