1ー9
ともちゃんがゆっくり伸びをして机の中からお弁当箱を取り出して私の机に集まる。
「頂いてます」
ちーちゃんが野菜ジュースにストローを刺し、ちゅーちゅー吸っている音が左耳から聞こえる。
「ねぇねぇー、編入生入ってくるって……」
「さっき聴いた」
「でねぇー、かっこいいんだってー」
「そこらへんなんでもいい」
「よくないよ! ねぇ、ちーちゃん!」
「うん、重要」
「でも飯田先輩の方が……」
「かっこいい」
漫才でもやっているのか、このふたりは。ごはんを口にして視線を黒板に向けた。
「なんでもいいけど、自己紹介の時に書く黒板の名前ってさ……」
「ってさ?」
「綺麗に書かなきゃいけないってプレッシャーでかなりガタガタになったりするよね」
「いや、しないかな」
否定されたのでカボチャの煮物を食べる。それが意外にも美味しくなかった。
「食べ終わったら飯田先輩のサッカー見にいかない?」
「いくいく! いくよ!」
「私は行かない」
「なんでよ! 行こうよ!」
「ちーちゃんもこう言ってるぞ」
「嫌なもんは嫌だ! 2人で行ってこいよ」
最後のタコさんウインナーを食べる。外を見るとなんとも殺風景な校庭だった。もう春が終わる。そんな青々とした木々に揺られて、私の中の主人公はなんと思うのだろうか。病気を恨むのだろうか、親を恨むのだろうか、神を恨むのだろうか、自分を恨むのだろうか。きっと、時間を恨むのだろう。
物語の初めは、時間はなぜこうも歩くのだろうか。師走のごとく焦りながらえっせえっせと私を蝕む。とかかな。うむ、メモをしたい。