3ー28
なんのために頑張って来たのか。誰のために頑張って来たのか。そんな答えを人生の中で得た方程式じゃ求められない。虹色に見えた世界もモノクロに色付いて、悔しくて雨の中探した虹も、結局はモノクロで。手当たり次第に試した色塗りも希望の光は残酷に色彩を見せてくれない。
たかが文字。平仮名、片仮名、漢字、英語。私たちが使える武器は多くてもその使い方がわからなければただの棒。丸すぎる「の」でさえ、人の心をズタズタに切り刻む事ができる。
「それで、どうしたんだい?」
私の部屋。霧ガラスの窓を開け放ち雲に隠れたり出たりする半月を眺めていた。
「なんでもない」
「それならご飯食べようよ。冷めちゃうよ」
なにもしたくなかった。今までやってきた事がなにもかも無駄になるのだからいっそのこと死んでしまいたいとも思っていた。
でも、ひとりにはなりたくなかった。
「私、やめる」
「……なにを?」
「菊川瑞希を」
「……どうしたの?」
「メモ帳……落とした」
「落としただけ?」
「拾われた」
「うん、それで?」
「私の存在バレた」
「うん。それで」
「私のこと、みんなが知ったら私の小説読んでくれない」
「それだけ?」
「……。それだけって、私は真剣なのに」
「別に早紀がどんな人であっても読んでくれるよ」
「彼氏いない歴イコール年齢なのに?」
「それでも皆の気持ちを掴んでるじゃん。だから、早紀、いや菊川瑞希の小説を読んでくれてるんじゃないかな」
私は振り返った。心配そうに見ている。その顔がとてつもなくムカつく。私は立ち上がって机の原稿を手に取った。
「こんなもの、私のものじゃない! 全部、そう全部全部ぜんぶ!!!」
原稿をビリビリに破く。