3ー26
天気予報。朝はなんて言ってたっけ。急いで出たから覚えてもない。ただわかるのはお母さんから傘を持っていけと言われなかった。それだけだ。折りたたみ傘なんて持つほど女子力は高くない。
そう、思う午後の下校道だった。夏の夕立。少し待てば止む。溜め息にも似た深呼吸に筆を動かすのを止めた。出来もしないのに挿絵なんて書こうとするから無駄に疲れる。
誰もいない教室。外が暗いだけでやけに虚しく感じる。野外の部活もテストが近いために廊下にさえいない。なんでみんな傘を持っているのだろうと考えるだけ虚しいだけだった。
「早く帰りたい」
悪いことは続く。本当に。新しく買ったメモ帳のはじめのページを破り捨てる。汚い絵なんて見たくもなかった。
「あれ? 早紀ちゃん?」
校内で私をそう呼ぶ人間は限られている。それが男性なら尚更である。
「帰らないの?」
「濡れたくないの。ってか彼女さんは?」
「ん? 少し休憩してるよ」
なんのだ。問はしなかった。聞いてはいけない気がして。
「傘貸そうか?」
「平気だよ。もう止むだろうし」
「あ、そう言えば……」
彼は自分の席から本を出す。それは「秋雨」だった。
「最近読み始めたんだよねー」
ドクン。胸が大きく鼓動する。何故だろう。慣れているはずなのに。
「恋愛小説なんてって思ってたけど、案外面白いもんだね」
「そりゃね。私は嫌いだけどさ」
ふーん。私の机の上に置かれた本。そして、彼が手をどけるとその上には見覚えのあるメモ帳が置いてあった。
「これ、返すの忘れてたんだ」
メモ帳。そう、なくしたと思っていた、メモ帳。
「あ、そろそろ戻らなきゃ。絵理が心配するや。じゃぁ、またね、早紀ちゃん。いや、菊川瑞希さん」
ーーーーバレたーーーー