3ー23
「行ってきまーす!」
「こら! 食べながら行くな!」
こんな少女漫画もびっくりなくらいのテンプレート。まぁ、残念なのは食べているものは食パンではなくベーコンなのだが。
珍しく寝坊をしてしまった。太陽が高く思えるほど遅く起きてしまったのなんてありえないことだった。1時間寝坊とか、むしろよく家を出れたと褒めたい。
猛ダッシュで駆け込む満員電車。危ないと言われても、これに乗らなければもっと危ない事になる。人生かかってるんだ。などと下らない感情を溜め息で吐きだす。これで余裕を持って行けるのだから結果オーライだ。
雪崩の様に降りる人の流れに乗って電車を降り、改札を出る。また満員の電車に乗り換えなければならないのかと思うと自然と気分が落ちる。
電車を待つホーム。私が知らなかったのか、はたまた止まってしまった電車の影響なのかわからないけれど、彼はそこにいた。
ラッキー。なんてホッとするもひとつ気になることがあった。いや、それはもちろん気になることだ。噂になるほど常に一緒にいた二人が、今はいないのだから。
声をかけようか。なんて考えていたら彼が私を見ていた。にこっとすると列を離れて私の後ろに並んだ。
「伊藤さんおはよう」
「おはよう。森谷くん」
角でぶつかるはずのテンプレートがまさかこんな形で成立するとは思ってもみなかった。
「いつもこの時間なの?」
「寝坊しちゃってさ」
「ホントに!? 僕も。絵理大分待たせちゃったみたいで悪いことしたよ」
奇遇だなんて装って、これじゃ女心も鷲掴みだ。朝から爽やかなスマイルを見れただけでも儲け物なのに。