3ー21
改札を出た時に気付いた。同じ電車に飯田先輩が乗っていたようだと。
歩を早め、少し後ろについた瞬間にこう言う。
「いーだせーんぱいっ」
ビクッとしたが私を見て直ぐに溜め息を吐いた。
「やめろよ、ストーカーが話しかけてきたかと思っただろ」
「ストーカーなんかいたの?」
「いや、むしろ現在進行形で」
「Willですね」
「お前英語ちゃんと勉強してんのか?」
2人並んで帰る。そんな日が当たり前だった。いつからだろう。こうやって別々に帰るようになったのは。
「あ、読み終わったぞ。帰ったら返すな」
「お、どうでしたか?」
「んー、最悪かな」
それは極自然だった。いつもの一言。
「例えば」
「それはオレからじゃなくて担当の人に聞きなさい」
「ぶー。だっていいねとしか言わないんだよ!? あの人」
「変わったんだっけ?」
「秋雨からね」
「それでもいい加減ひとりで良し悪し考えなさい」
「わからないから聞いてるんじゃん」
いたちごっこだ。きっと教えてくれない。わかっていても聞きたいのだ。
「オレも忙しいの。あんまり頼るな」
「はーい」
ふてくされたように鼻を上げ、足を早める。
「手直ししますよーだ」
「まったく早紀は……」
お互いの家に着いた。その時に用紙を返してもらう。
「じゃぁ、おやすみ」
「うん! また呼ぶかも」
「やめろ。勉強したいんだから」
「いいじゃんかここら辺の大学でもー」
「余計なお世話だ」
背を向ける彼から少しの疲労が見える。毎日夜遅くまで勉強しているからなのか。
「おやすみ」
そう呟くと彼が急に私を見た。今度は驚きの顔でもなく、ただただ……。
「早紀、そう言えば大丈夫か? 心配そうな顔してるぞ?」
それは極自然だった。一点の曇りさえ出した記憶がないのにこの人はこうやって、全てを見通してくる。
そのことだけがショックだった。