3ー15
「たすけて」
そんなメールが香川くんから飛んできた。普段から強がっていて誰にも助けを求めない彼が、こんなにも弱々しい文面で送って来るなんて。
何かの事件に巻き込まれたのか。私はそう思うととてつもなく不安に駆られ、教室を出て香川くんに電話をかける。
無意味に間延びするコールが私を苛立たせる。まだか。電話に出れない状況なのか。もう手遅れなのか。
5回目のコールだろうか。コールが途中で途切れると次には無音が広がった。
「ねぇ、香川くん!? どうしたの!?」
焦りから大きい声が出る私。廊下を歩く人たちの視線も気にせずその先の言葉を待った。
「……ごめん。ここじゃ話せない。お昼に校庭の桜の木の下に来てくれないか?」
泣いている? 電話越しでも伝わるような不安が私を冷静にさせる。
「わかった。お昼に桜の木の下ね」
「すまん」
その言葉で通話が切れる。ひとつ大きく息を吸って吐く。
授業もまともに受けれない精神状態、シャーペンをぐるぐると回しながら香川くんの心配をしていた。
桜の木。この学校で1番大きな桜の木を特別オウギと呼んでいる。誰が呼び始めまたのかは全く知らないが、センスのない名前だ。
この学校で桜と言うとオウギの事を言っている。
オウギのある場所は飯田先輩たちがサッカーをしている場所よりも校舎よりで場所によっては窓の外直ぐにオウギの満開を眺めることが出来る。
実はオウギはあの「秋雨」でも出したものである。その春の美しさと、秋の華やかさ、夏は力強く、冬はしんしんと積もる雪に身を包む。まさに四季そのものを表すもので出しやすかったのだ。