3ー9
放課後も大分過ぎた。家に帰ってから着替えて、またいつものように駅前で待っている。待っていると言っても、メールを確認しようと携帯を起動させると彼が直ぐに来たくらいごく短い時間だった。
「ごめん、待たせたね」
「ううん。私も今来たところ」
お決まりのセリフがこうもしっくりくることが現実にあるのかと思うと少しばかりおかしかった。携帯をしまうとお目当ての物を探しに向かう。
欲しいものはどうやらカバンらしい。彼女の急激なイメチェンに服装は平気でもカバンまでは相応しいようにはできなかった様だ。というよりもっと似合うモノがあると踏んで探しに来ているようで入りづらい場所も女の子と一緒なら入れるだろうと踏んで私を呼んだようだった。
完結に、白くて可愛いカバン。だそうだ。
ここら辺で1番品揃えのいいショッピングモールに入る。
するといきなり美味しそうな匂いが鼻をくすぐる。この匂いの香る方を見るとそれはクレープ屋さんだった。出ている店頭の看板にはチョコバナナやキャラメル、チーズにあんこに生クリームにシュガーバターにその他フルーツにサラダにツナにコーンにあれにこれに……。
「食べる? クレープ」
「え? い……いや、いいよ。カバンをさ……って」
手を引かれる。転びそうになるのを必死で我慢すると今度は急に止まるから頭を彼にぶつける。
「いったぁー」
と頭を抱えながら頭を上げるとクレープのいい匂いが鼻いっぱいに広がる。
帰宅途中の同い年の子が美味しそうにチョコバナナを食べている。カップルの人は1つを分け合っている。あれはシュガーバターだろうか。
などなど、目に毒な物を見ていたら言葉が急に私を誘惑する。
「どれがいい?」
誘惑とかではない。もはや、私は1つを指していた。