3ー1
「どうだったんだい? デート」
煙草の煙のようにどんよりとして臭い気持ち。出来れば避けたいもの。なんとなく風に当たれば消えると思った。
部屋の窓辺に腰掛け、ホットココアを手に持ったまま背中で受ける月光に目を向けている。
休憩なのか隣の家の窓が開いた。それと同時に聞きなれた声が投げかけられた。
「楽しかったよ」
「そんな風には見えないけどな」
私はココアを飲み自分の足先を見た。歩き過ぎか少しだけ赤くなっている親指。この努力に見合った事を私は出来たのだろうか。
「まぁ、言えないなら聞かないよ」
「納得できない」
驚いたようだった。流れるような動きが一時的に止まったのだ。
「私、衝動的に酷いことしたの。絵理ちゃんに。告白すればって。それは後悔した。でもまさか上手くいくなんて……」
思い出す男女のコミュニケーション。そんなこと当たり前に描いてきたのに、何故だか気持ち悪く感じてしまった。
帰りの電車の中でも手を繋いでいた。本人からちゃんと聞いた訳ではない。しかし、その仕草でマーキングしているようだった。告白が成功したと感じるには十分すぎる情報だった。
「なんで失敗することを考えていたのかな?」
「え?」
思わぬ返しに彼の顔色を窺うとどうやら怒っているようだった。
「まるで失敗を望んでいたみたいじゃないか。早紀は人の不幸を望む様な人だったんだね」
「ち、違う!」
「どこが違うのかな?」
「そ、それは……」




