1ー6
そう言うと本を閉じて私を見た。
「でも売れっ子になってよかったよ。でないと黒歴史になるんでしょ? こんなに面白いのに」
視線をそらす。
「はいはい。それ言うために開けさせたの?」
「うん。ダメ?」
「執筆の邪魔って言ってるでしょうが」
振り返って机の前に行く。
「今回は面白くなかったけどね。泣けないよあれじゃ」
その意見に耳を貸しながら座る。
「愛情よりも友情に響かせた方がまだぐっときたし、展開引っ張ればもっと良くなったと思うよ」
「長いって言ったの誰よ」
「誰?」
「あんたよ」
右上にあるバツ印をクリックする。
「1冊分削ったのよこれでも。長いって言うから」
「そうだっけ?」
「そうよ」
そして、ワードを開き筆を動かす。
「でも、やっぱりお前の作品好きだわ」
「……あっそ」
エンターキーを押してキーボードから手を離す。また、悲しい話しになりそうだ。
世の中は不条理だ。思い描く方向へとは全く進まない。運が定めた道にしか進むことはできない。神のみぞ知るその先。私は一生恋愛なんかできないのだろう。こうやって夢物語を書き、それで満足しているのだから。
本当に不条理だ。1度も彼氏のいなかった私の恋愛小説がまさかこんなにも売れるなんて誰が思ったことか。
筆を進める。プロットがもう頭の中で出来上がっている。
あの日見た美し過ぎる結婚式を夢見た少女の、儚い時間のお話し。