2ー42
ボートを降りると直ぐにお手洗いに連れていかれる。まぁ、あんな事が身に起きれば誰だってブレイクタイムが欲しくなる。
「手汗が……」
「気にしてないよ」
「手、洗わない方がいいよね」
「そんなことやってたら付き合い始めたらお風呂にも入れないよ」
半ば溜め息の様な息が鼻から口から抜けていった。
手を洗いながら冷静に思い返す。個人的には絵理ちゃんと森谷くんの恋愛が私にとってのネタになればいいとだけ思っていた。しかし、香川くんというキャラによってこの物語は複雑になっていた。
簡単な三角関係の構図。かと思うのが普通だが、そこに浮かぶ不思議な過去と絵理ちゃんの行動に関する不思議は明らかに重ならないのだ。そこに疑問ばかり思う。結局絵理ちゃんは誰が好きなのだろうか。
「……ねぇ、早紀ちゃん。手、ふやけちゃうよ?」
その一言に手を引いた。自動に止まる水に文句を言われるはずもなくただただ冷えた両手に水を感じるだけだった。
「ぼーっとしてどうしたの? 何かあった?」
「いや、絵理ちゃん……」
自分でもなにを言っているのか分からなくなった。それがあからさまに絵理ちゃんを傷つけるとも考えず、ただただ天の声の如く口をついた。
「ホントに香川くんが嫌いなの?」
「あ、当たり前じゃん」
「ホントに森谷くんのこと好き?」
「そ、そうだよ?」
「ならさ、今日その気持ちを伝えてみたら?」
首を傾げる彼女にさらに言葉を繋いだ。
「香川くんとしっかり別れるのと、森谷くんに告白するの。それで気持ち伝わるよね」