2ー41
4人乗りは手漕ぎボートのみだった。個人的にはスワンボートに乗りたかったのだが、2人乗りだと言う事で断念した。
今オールを持っているのは香川くんだった。漕ぐのは上手いのはわかったのだが、怖い。ボートにしっかりとしがみつき、物凄いスピードでそろそろ反対の岸に着きそうであった。
「うほー、いい風」
「なんでもいいからスピード落としなさいよ! ぶつかる!」
「大丈夫だって」
大丈夫ではない。そう言っている時にぶつかっているのだから。とてつもない衝撃にボート内に倒れていく。
「いててて……」
起き上がると同時に森谷くんを下敷きにしてしまったことに気づく。
「ごめん! 大丈夫!?」
「う、うん。ケガはない?」
「私は平気」
「それはよかった」
微笑む彼を見ると何故だかドキッとする。何なのだろうこれは……。
「香川、オール貸せ」
「うぃっす」
渋々渡すと今度は森谷くんが優しく漕ぐ。そうそう、これ。気持ちいい風に身をゆだね、水に浮かんでいる想像をするだけで自然とリラックスできる。
「私もやりたい!」
次は絵理ちゃんが漕ぐようだ。見よう見まねでやっているのだろう。だがしかし少しも動かない。感じていた穏やかな風もピタリと止む。
「ねぇ、森谷くん。漕ぎ方教えてあげてよ」
「そうだねー。こうやって漕ぐんだよ」
私の位置と入れ替わり絵理ちゃんの後方に森谷くんが来る。絵理ちゃんを覆うようにして座り、オールを持っていた手の上に手を置いた。
いやー、いいシチュエーションだ。即興ながらいい仕事をしたと思う。
顔を真っ赤にしている絵理ちゃんを見てニヤニヤしていると、私の後方で舌打ちが聞こえた。
その音の方を見ると、面白くなさそうにしている香川くんが遠くを見ていた。