2ー37
「なに、気持ち悪い」
私の腕をしっかりと掴む絵理ちゃん。私はなにが起こるのかむしろワクワクしていた。久々にこういったもので怖いと感じているのだから。これが気持ちの高揚に繋がらないわけが無い。
霊安室の中央にはひとつの棺桶らしきものがぽつんとあるだけで、ほかには何もなかった。止まっていても何も始まらない。勇気を振り絞ってそれに近づく。
棺桶に手が届く距離に来た。すると聞きなれた笑い声が耳に入る。ここに、マリエさんが眠っているに違いない。
開けろと言わんばかりに若干開いている棺桶の蓋に手を掛ける。
「ちょっと、やめようよ」
そういう彼女の意見を無視してゆっくりと開ける。
気づいたら血まみれのやせ細った手が私の腕を掴んでいる。
「きゃぁ!!」
さすがに驚いた私もその場から離れようとするがあまりにも強く握られていて離れることもできない。
それに混乱したのは絵理ちゃんだった。その手を叩いて離すようにさせたのだが、案外しつこく握っている。仕方無しに思いっきり腕を引くと抜けることができた。
その手は棺桶に戻る。すると蓋がゆっくりと開き始める。
「いやいやいや」
絵理ちゃんに引っ張られるようにして男どもの待つ入口付近にまで寄る。
「ねぇ、開かないの!?」
「開いてたらもう逃げてる」
香川くんの白状ぶりには笑いさえ覚える。森谷くんは、……もう触れないであげよう。可哀想すぎる。
棺桶が開ききり、中から女性がすっと立ち上がる。そのスマートさはマイケルジャクソンの技にさえ思える。
棺桶から出てくる。ゆっくりと、ゆっくりと、近寄る。この切迫した雰囲気にいつの間にか聞こえているBGMの煽りが相乗効果を与えてくる。
「マリエ、寂シイ」
淡白な言葉。まだ開かないという焦り。マリエさんはもう目の前にいる。
「ネェ、一緒ニ、遊ボ……」
マリエさんの動きが急に止まる。不可解な動きと共に今まで耳元で聞こえていたBGMが急に止まった。
「シ……ン……デ……」
急に顔が見えたかと思うとニヤリと笑い、奇声に近い笑い声を上げる。
瞬間、扉が開く。
それはもう一目散に出口に向かう。後方から聞こえる笑い声から逃げるために。
意外と長い一本道を終えるとそこには厚めのマットが壁となっていた。そこに勢い良くぶつかっていく男どもと、その男にぶつかる絵理ちゃんを見て、私はゆっくりと止まった。