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「外さなくてもいいよ」
言った当人が驚く。いや、私なんだが。なんでそんなこと言ってしまったのだろう、など思っても後の祭りだった。
「……なんで?」
理由なんてわからない。口が先に出たのだから。必死に理由を探しても何も思いつかない。
「なんで……だろうね」
絵理ちゃんが不機嫌そうに首を傾げる。
「これはふたりの問題だし、関係ないじゃん」
「それでも私はそのままでいいと思う」
「あっそ。じゃぁ好きにすれば」
今まで上機嫌だったのにこの変わりようはまさに山の天気に例えられる位だ。先人の方々はよくものごとをみているんだなと感心する。
ってそんなこと考えている時ではない。相変わらず困るのは森谷くんだ。楽しみたいだけなのにこんなに喧嘩ばかりではやりきれない気持になるに決まってる。
会話もなく気まずい雰囲気のまま、入口にたどり着いた。
衣装なのか白い着物を着ている、さっきとは違うスタッフの女性の指示に従い、お化け屋敷での注意点を聞く。
「写真撮影禁止、オバケが写りますからおやめください。明かりの点くものも禁止。オバケが点かなくしています。オバケとお話し禁止。殺されてしまいますよ」
口が上手いのか設定なのかはわからないがとても上手く話しかけられ思わず笑ってしまう。こういう接客方法もあるのだなと深く感心する。
「最後に、この病院の中にはオバケのボス、マリエさんがいます。出会ったら走って逃げてください。捕まったら……」
恐怖に顔を歪め、暗示させる様につぶやく。すると扉が自動で開き中からの空気が熱った体を一気に冷やす。
「それではお気をつけて」
聞き届けてから中に入る。のはいいのだけど何故か私を先頭に中に入った。




