2ー31
そんな時、香川くんの足首にミサンガがつけられているのが目に入った。特に不思議な事はない。なのに気になった。気になりすぎるのでしゃがむ。
「危ない!」
ぐっと抱きつかれ、その胸板にあたまをぶつける。
「いったー。違うってミサンガ……」
森谷くんが険しい顔をしているものだからまた倒れたとでも思われたのだろう。ってやけに顔が近い。
「あのー、離して」
ミサンガの方を向くと共に、慌てた彼が私から手を離してくれる。突然の事に驚くのは私だけではなかった様だ。
「今のなに。突然の欲情」
「バカなこといってないの」
絵理ちゃんはフォローを入れてくれるが、皆突然の事に状況を判断できないでいる。
「いや、これは、また伊藤さんがね、倒れたのかと思って、」
途切れ途切れの言葉にふたりの視線はキツくなっていく。疑う余地もないと思うのだがその早とちりのラッキータッチが許せないようだった。
「そ、そんなことより! それ、どうしたの?」
話しをそらしながら私の本題に戻す。指差すのは足のミサンガである。私の思い違いならいいのだが、これは去年どっかの先輩も大きな大会前に着けていた記憶があった。その時に聞いたのは、選抜のメンバーに対してマネージャーが作ったものだと言う事だ。
「何ってミサンガ」
「そうなんだけど、だってそれ」
「私が作ったの」
冷たく言い放つ絵理ちゃん。
「私が作ってあげたの」
それはどういうことなのだろう。私にはふた通り考えられた。メンバーに入れなかった彼にプレゼントした。メンバーの彼にマネージャーとしてあげた。私にはどちらか判断できなかった。
「まだそんなの着けてたの?」
「いいだろ別に」
「早く捨ててよ」
気まずい雰囲気どころか、カフェでの事が再発した感じになっている。今日それが起こるのは耐えられそうになかった。