2ー20
ウインナーが全てなくなると共に外から黄色い声が飛んできた。こればかりはうんざりするものだった。日常は刻一刻と転々とするものだな。
「お、行かない?」
「行かないってかどっちかに絞りなさい」
「いやー、難しいね」
この女は、と頭を抱えると絵理ちゃんが私の所に来た。未だに暗い顔をしている。針の刺さった風船の様に少しでも刺激すれば空気が抜けてしまいそう。
「あのさ、早紀ちゃん。ちょっと来てくれない?」
神妙な声に私はともちゃんを見て助けを求めたが、ともちゃんも同じように助けてやれと言う目を向けてきたので私は立ち上がる。
「オッケー。私もまだ聞きたいことあるからさ」
立ち上がり、彼女の背中を軽く叩くと教室を後にした。
彼女に連れられて来たのは人通りの少ない階段下のフロアだった。埃が積もり、人通りの少ないと言う表現が適切ではないことを自分の足跡を見て思う。
「一目惚れってなしなのかな?」
彼女が繰り出してきたのは、私の想像していた事よりも明らかに異質だった。
「なんでそう思うのかな?」
「アイツとはそういう感情持ったことないんだ。この、苦しいとかさ」
胸の中心に拳を当てて俯く彼女。
「それはどういった苦しいなんだい?」
これは初めて本を出す時に担当の人にされた質問だ。掘り下げとも言われるこの方法を使うとは思ってなかった。
「どういった……、ひとりの時とか……かな」
「それは、森谷くんのことだけを、思うのかな?」
すぐには頷かなかった。その迷いには香川くんが絡んでると勝手に思っている。読者の人だってそんなことくらいわかってる。だから、こう告げる。
「ならさ、告白しちゃいなよ。もしかしたらいけるかもよ?」
ここで小細工をするのが作家の楽しみである。私は今、どんな表情をしているだろうか。頬に緊張をいれるのが辛くなってきた。