1ー3
「ねぇねぇ! 私達も見に行こうよ!」
「は?」
ご飯を食べ終わっていない人が言えるセリフなんだろうか。それより、それだけは阻止したい。
「ねぇ、いいでしょ?」
「嫌だ。ひとりで行けばいいじゃん」
「ひとりで行くの嫌だから言ってるんじゃーん」
「それでも嫌だ!」
私は机の上にあった小説をとって少し読む。数行読んで直ぐに閉じたが。
「あれ? 読むんじゃないの? 大っ嫌いな菊川瑞希の恋愛小説」
にやにやしながらのぞき込むともちゃんに殺意を覚える。
「間違えて取ったのよ。紛らわしいカバーなんか付けて」
「顔赤ーい」
「もう! 絶対に付いて行かない!」
閉じた本を叩きつけるように置き、別に置いてあった本をとって開けた。
いや、閉じる。
「とーもーちゃーん!」
「あはは! これですねー」
私の探していた本を見せてお腹を抱えて笑い、そのまま立ち上がって走り出す。
「は!?」
これは誘導だ。間違いなく先輩の元へ行くつもりだ。だから私は、座って下巻の後半を見る。
「なにが幸せになるねだ」
この物語の最後は彼が自殺をしてしまう。それを病む主人公に最後に届けられた遺書を読んで泣きながらそう呟いて終わる。
こんなんで売れるのだから苦労ない。世の女性はなんでもありだと感じる。
「ねぇ、行かないの?」
「行かない」