2ー16
今日の出来事を掻い摘んで話す。すると困った様な表情をするので少し突っ込んで聞いてみる。
「それでさ、辞めた理由がわかれば少しはなんとかできるかなと思うんだけど、なにか知らない?」
「知ってるもなにも、辞めさせたのオレだしな」
それにはド肝を抜かれた。
「どうして?」
「んー、これは言っていいのかなー」
知っているらしい。だが、教える気はなさそうだ。深い理由があってのことなんだろう。
「ひとつ言えるのは、香川は下手じゃなかったよ。むしろ、オレより上手いかも」
うちの学校で飯田先輩より上手いということは地区ではトップレベルということになる。それなのに、何故辞めた、いや辞めさせられたのか。
「やんだかな」
傘を閉じる。通り雨は去ったようだ。
「虹出るかな」
「どうかしらね」
残り少し。後2分もすればお互いの家に着いた。無邪気に虹を探す彼の顔は霧のような湿気と陽の光で七色に輝いていた。思わず視線をそらす。ドンと胸を叩いていった心臓、冷静を装う私。
「もし、オレが早紀の為にサッカーを辞めるって言い出したらどうする?」
唐突な問い。まず、それの意図を考える方が先なのに、不意打ちというか追い討ちというか、ドンドンと胸を叩くリズムがどんどん早く大きくなっていくのが直ぐにわかるくらい私の思考回路は血行過剰によりショートした。
「きっとそう言う事だと思うよ」
トントンと足早に歩いていく。
「じゃぁね、早紀。風邪をひかないように」
そう言って家に入っていった彼のワイシャツは半分が雨で濡れていた。私はどこも濡れなかったのに。