2ー15
これは最悪だ。予感も直感も推測も全てを使い、予測をしたにも関わらず私は今最寄駅で足踏みを強いられている。
「こんな時になぜ持っていない私」
深く溜め息を吐くがそんなもの風と雨でかき消された。履きなれていないヒールの爪先を地面をコンコンと軽く蹴る。正直限界である。運動靴が恋しい。
「そんなオシャレして、どうしたんだい、早紀」
急に声をかけられる。反射的にそっちを向くが特に出会って嬉しい相手ではなかった。
「森谷くんとデートしてきたのかな?」
「当たらずとも遠からず」
イラつきを抑えながら唇を尖らせて言う。
「いいねー。オレもしたいわ」
絶対に嘘。毎日の様に女の子とどっかに行ってるの知ってる。
「なんでもいいから、その持ってる傘に入れろ」
「もちろん。そのつもりだよ」
手に持っていた黒い折りたたみ傘を開くと私はそっと近寄った。
「ちっちゃいわね」
「持ってこない早紀が悪い」
「わかってるわよ」
傘に激しく当たる雨。ドンドンと叩く音がする。
「今日は随分と元気がないね」
「そう?」
「うん。お兄さんに話してみなさい」
話して良いものかと少し躊躇った。なにせ、彼の知っている人物故に渦中に引き込んでしまいそうだったからだ。もう、迷惑をかけないと誓ったのだから。
しかし、逆に考えれば香川くんの辞めた理由が少しでもわかるんじゃないかと思った。そのくらいなら聞いても問題ないはずである、と結論が出た。
「香川って子、知ってる?」
その名前を聞いて驚いたように私を見た。
「あぁ、オレのことが嫌いな奴? 逆に知ってんの?」
ともちゃん、どうやら君の言っていたことはあながち間違っていなかったようだよ。