2ー14
私はそそくさと元の席に座り香川くんを見る。まぁ相変わらずそっぽを向いているけど。
「それでなにが最低だって言うんだい?」
「サッカー部辞めた理由、飯田先輩がウザイからだって! そりゃ絵理ちゃんも怒るわ」
それは的を外していると思うが、確認をしてみた。
「ホント?」
「んな訳ねぇだろ」
「うん、今のは秋川さんの思い違いだと思う」
1番冷静な森谷くんが威嚇し始めているともちゃんに代わって私のいない時の話を解説してくれた。
ようはこうだ。上手くなれない。やめた。
「最低……」
「どこがだよ!」
流石に尺に触ったのか机を強く殴る。そんなで動じる女に見えるのだろうか。
「ようは情けない自分から逃げたんでしょ? これの最も底だと言えないわけないよね」
「才能がなかったんだ」
「だからなに?」
私は彼を睨む。
「才能なんて私もないよ」
1度目をつむり、落ち着いてから目を開ける。そしてチーズケーキを食べ始める。
「少しくらい我慢してみーよ。もしかしたらプロサッカー選手にでもなってワールドカップに出れるかもしれないのに?」
「んなの夢だろ。夢なんて叶わないから夢なんだぜ?」
「こんな漢字知ってる?」
メモ帳に『努』をふたつ並べて書き見せる。
「え? どど?」
「ゆめゆめ」
私は彼の目の前にメモ帳を置き、最後のひとくちを食べる。
「意味は決して、必ずで禁止の語句と共に使われるの。面白いよね。努力をふたつ重ねるとゆめゆめ。ゆめよゆめよと追い続けていくうちに、その努力が必ず叶う。君に捧げられる私の言葉は、努々諦めるな」
長々と言い放ち、私は立ち上がる。
「って事で早く帰らない? 雨降るし」