2ー12
私とともちゃんでいちゃいちゃしていても、この染み付いたようなピリピリ感は消えなかった。絵理ちゃんと彼との間にどんな出来事があったのか気になる。決してネタ探しではなく、友だちとしての心配だ。
「おい、香川」
森谷くんがそっぽを向いている、少しガラの悪い感じの少年を肘でつつく。
「自己紹介」
「香川慎太郎」
「あ、思い出した」
ともちゃんが急にそう言うとともちゃんが彼の説明を始めた。
「サッカー部の子だ。いつも飯田先輩に怒られてる」
そこまで聞くと舌打ちが聞こえた。
「今年に入ってから見ないとは思ったけど」
「なんで辞めたのよ!」
構えていなかった大声に驚くと自然と周りの視線が痛く感じた。それに絵理ちゃんも気づいたのか申し訳なさそうに会釈して息だけでスイマセンと呟いた。
「いいじゃん別によ」
「よくないよ」
急激なシリアス展開に1番困っているのは森谷くんだろう。これじゃデートが台無しだ。かくいう私もどうすればいいのか困っている。
「いいだろ、オレの勝手じゃんかよ」
「勝手とかじゃないじゃん」
「なにが違うんだよ」
「ちょっちょっ待ってね」
これじゃらちがあかない。2人の会話を止めると自然と静かになり、また2人がそっぽを向いてしまう。
「なんかよくわからないけど、どうしたの?」
「どうもしないよ」
「いや、どうもしないとかじゃないよね、流石に」
詳しく聞く気にはなれなかった。余計悪化させるだけだと思った。こんな時、どうすればいいのか全くわからなかった。
沈黙が長く続くと絵理ちゃんが急に立ち上がる。
「ごめん、帰るね」
「ちょっと!」
私はそそくさと帰る彼女を追う。追いついたのは店を出てからだった。湿った空気と涼しい風が、西日のグラデーションを深く刻む入道雲の存在をより明確に表していた。雨が降る。
「逃げちゃダメだよ!」
彼女の腕を強く掴む。