2-8
その日家に帰ると急に雨が降り始めた。足早に帰ってきたかいがあったというものだ。
靴を脱いでいつものように部屋に戻り、着替える。
髪を縛り、パソコンを開いてひと通り書き終えたその物語を読んでいく。
病気と知った。
長くない命だと告げられた。
親を嫌いになった。
彼を好きになった。
卒業をした。
彼に告白された。
断った。
死にそうになった。
彼がお見舞いにきた。
気持ちを伝えた。
退院できた。
2人暮らしを始めた。
予定より長く生きれている。
余命がなくなった。
病気が治った。
幸せ。
結婚を決めた。
病気が戻ってきた。
死にそうになった。
死んだ。
読み終わって私は立ち上がり霧ガラスを開ける。隣の家の男子は大雨なのにも関わらず窓を開けて勉強をしている。
「おい、暇なら愚痴を聞いてくれ」
そう言うとあいつの顔がひょっこりと出てきた。
「なんだい?」
まったく、優しいやつだよ。受験勉強もそろそろピークだろうに。同情にも似た感情を抱き、モヤモヤと思っている事を言う。
編入生にデートを持ちかけられた。嫌だから複数人でお願いした。そうしたら編入生に一目惚れした子が行きたいと言いにきた。それで、私、ともちゃん、その子でデートをする事になった。全てを流れるように伝え溜め息を吐いた。
「あぁ、森谷って子かな?」
「知ってるの?」
「もちろん。女子たちがわーきゃー言ってるよ」
「あんたもその標的だったでしょ」
「そんな時代もあったかな」
「現役、黙れよ」
「黙っていいなら勉強に戻るけど」
「ごめん。そうじゃなくて、私どうしたらいい?」
「どうしたらって? 森谷くんに好かれる方法を聞いているのかい?」
「違う。どうやったら2人をくっつけることができるか」
「難しい事聞くねー」