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虹の先  作者: kazuha
虹の先
203/211

5ー54

 紳助がどんどん遠くに向かっていく。追いつかなければ、追いつかなければと思うほど足は動かない。

「しんすけ……」

 止まって。気づいて。

「しんすけ……」

 そんな私とは裏腹に声も足もどんどんと出なくなる。

 なんで……。私は……。

「しんすけ!!!」

 自分でも驚いた。この広い空間で声が返ってきた。響く私の声。緊張が頂点に達した。

 紳助は足を止めた。ゆっくりと私の方を見て、太陽の様な笑顔を見せてくれた。

 お互い近いていく。最後の2人の時間。

ーーーー最後の2人の時間。

「よかった。最後に会えて……。来てくれないのかと思った」

 何を言ったらいいのかわからない。どうしたらいいのかわからない。

「そうだ。これにサインしてよ」

 手持ちのバックから出したのは菊川瑞希の最新作だった。その表紙の次のページを開き、ボールペンを私の目の前に出した。

 ペンを受け取り、いつものようにサインを書いていく。

 最後に、特別なマークを添えて……。

「ありがとう。これで向こうで自慢できるよ。菊川瑞希のサイン全部持ってるぞって」

 本当に嬉しそうに本をしまう。私はペンを返す。

「じゃぁ、もう時間ないから行くな」

 私の頭を触れる大きな手。愛しい、手。

「じゃぁな。おみやげ楽しみにしといて」

 踵を返す。そのまま、あの先へ行ってしまうのか。

ーーーー本当にそれでいいのか?

 なんのために来た?

 満足した?

 こんなんでいいのか?

「紳助……」

 良い訳がない。せめて……。

「ん?」

 振り向いた彼の唇を奪った。

 たった一瞬。永遠の様な瞬間。

 全ての恋愛が実る訳ではない。

 虹の先。

 一瞬だけ見える朧な光。

 そんな先なんて誰にもわからない。

 自分の人生、この先どうなるかなんて誰にもわからない。

 この先、紳助とどうなるかなんて誰にもわからない。

 諦めなければ、なんだって叶うのだから。

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