5ー53
人混みを抜けた。
急に開け放たれた空間に出ると、ふわっとした気持ちになる。
どこかに、近くに、紳助がいる。
黒目を右へ左へ大きく動かしその姿を見つけようと必死だった。
なんでこんなに……。
好きだから。
どうしてそこまで……。
好きだから。
理由なんてそれだけでいいじゃないか。それで笑われたって罵られたってかまわない。
本当の自分なんだから。
「いたっ……」
見つけたその瞬間はともちゃんとお別れのキスをしている場面だった。
本当の自分を出すべきなのか?
今更、天使と悪魔なんてベタな思考をしているなんて……。なんでこんなタイミングなんだ。
紳助は泣くのを我慢しているともちゃんの頭を撫でて歩き出した。
もう、悩んでる時間なんてない。
でも、ここで私の告白を受けて、紳助は嬉しいのだろうか。ともちゃんはどう思うのか。私は何を後悔するだろうか。
決めた覚悟は全て不安に変わった。
何にもしなければ全て穏便に済む。
それでいいのか?
ーーーー傷つけてもいいじゃんーーーー
私の背中を押してくれた言葉。最後のチャンス。この時くらい自分に素直になれなくてどうするんだ!
「しんすけ……」
小さな声。臆病だ。大声も出せないなんて。こんな声でも聞こえるように……近く……近く……。
「しんすけ……」




