1ー2
どうやらその事を語っていたらしい。私、凄く共感できる、と。小説の中ではコンプレックスがあり、なかなか恋愛出来ずにいる。
「聞いてた聞いてた。半分くらいは」
「嘘ね! またきいてたの漢字が簡単なほうだよーとか言うんでしょ! 耳から抜けてるじゃないのよ! ぶー!」
咀嚼を再開しご飯を飲み込む。
「正解」
「もういいし! たこさん貰うし!」
あ。私のたこさん。もう既に口の中で粉々にされているたこさん。あぁ、最後までとっておいたのに。
「それにひてもさー、『秋雨』かなり好評だよねー。短編好きの菊川瑞希さんが上下巻に分けちゃうなんてさぁ。しかも読み終えた人とかいるわけよ! おかしくない? まだ発売されて2時間だよ!?」
そもそも、それを買うために1限を休む奴が多かった気がするが仕方が無いことなのだろうか。ともちゃんもそのひとりだし。
「読める人は読めるんだよ」
「いや、絶対にフライングゲットよ。フラゲフラゲ」
先行販売はあるだろうが、買えたんだからいいじゃないか。買えなかった人とかいたとか聞いたぞ。
「やっと上巻読み終わったのよー。もう2時間かな。はやく続き読みたいなぁー」
私は黙々とお弁当を平らげると直ぐにしまう。そしてペットボトルのお茶を飲み息を吐く。
「菊川瑞希さんってどんな人なんだろうねー。同年代だよね絶対! じゃなきゃこんなリアルなの書けないし! きっと恋愛の達人よねぇ」
「そうでもないかもよ」
「ん?」
窓の外から黄色い声援が聞こえてきた。耳障りな音に思わず耳を塞ぐ。何事かは直ぐにわかる。サッカー部部長の飯田紳助先輩がご飯後に校庭でサッカーして遊んでいるのだろう。